打てば響く(『なだいなだのサロン』コラム) 転載

27:打てば響く(2月13日) 転載
北極星 02/17 20:39
2月13日 感想 へそ曲がりな見方

悪役の存在感

あまり詳しくは書きません。
いずれ、「婦人之友」か「ちくま」か「日教組新聞」でとりあげて書くつもりですから。

 朝青龍引退。

 相撲協会は、きっと後悔するでしょう。朝青龍は悪役でしたが、強烈な個性が
ないと演じられないのが悪役です。こんな才能を持った相撲取りは、何十年に
一人現れるかどうかでしょう。そして悪役がいない芝居はつまらない。相撲協会
にとって、朝青龍は得難い宝物だった。そのことに気がついていない。気がつ
いた時に後悔しても遅い。朝青龍のいない場所はつまらなくなる。そしてファン
も遠ざかる。

 この引退を仕掛けたのは、横綱審議会ですが、審議会は偽善者の集まりの
ように見えます。横綱の品位などというけれど、本当に横綱らしい横綱だった双
葉山も、完璧ではなかった。戦後自分が信仰した爾光尊を警察から守ろうとし
て、暴力をふるった過去があります。それから復帰して、大相撲の理事長にな
った。大鵬だって、新宿のバーだったかで、芥川比呂志(比呂志の方が挑発し
たらしいが)と、あわやけんかというところまでいった話を聞いたことがありま
す。

 それに、ともかく強くなければ、なれないのが横綱。品位だけで横綱になれる
ものではありません。

 審議会の面々で、品位の感じられる人がどれだけいるかです。ぼくには偽善
者の集まりに見えます。

 それに相撲協会の理事選。あれは談合そのもの。自由選挙ではありませ
ん。あれほど品のない選挙はありません。談合そのものです。談合こそ日本の
国技ということなのでしょうか。

 政治の世界でも、倫理とか、道義的責任とかを、野党もジャーナリストも問題
にしますが、振り返って、その人たちは道義的に、倫理的に一点のやましさも
なくいえるのでしょうか。イエスが売春婦に石を投げている人たちに問うた言葉
を思い出すがいいのです。

 この言葉は、本人が「自分は法的に罪を問われないが、道義的な責任は痛
感している」という。そういう場合に据わりのいい。自民公明の連中の口から出
ると、言葉が居心地の悪さを感じるでしょう。台詞は、口を選ぶのです。他人の
台詞か自分の台詞か、考えて物をいわねばいけません。

 話は飛びます。小沢の不起訴を、ぼくはテレビの報道の前日、アメリカのキャ
ンベル国務次官補が、小沢と会談したというニュースを見て予知しました。「起
訴はないな」と。翌日起訴される人に、アメリカの国務次官補が大使を連れて
会うことはない。ニュースに注意していると、かなり予知できる部分があります。
ということは沖縄基地の問題も、希望が見えてくるということです。かれも政界
では朝青龍のような悪役です。かれなら、アメリカと沖縄基地問題で駆け引き
できるでしょう。岡田も北沢もまったくダメ。官房長官もおかしくなった。国務次
官補も、結局は相手は小沢だな、と判断したのでしょう。

 清濁合わせのんで、日本の未来を考えて、誰が必要かを見る。有権者はそ
こまで賢くならねばいけません。

28:打てば響く 2010年4月5日分 転載
 04/07 13:23
4月5日 最近の感想です

「老人党は忘れていない」

 去年の九月に、総選挙で大勝して、民主党政権が発足してから、半年が過ぎました。

 まだ半年か!と感じる人もいるし、もう半年も!と感じる人もいるでしょう。

 この内閣は、公約だった「子ども手当て」や「高校授業料無料化」は、早々と実行しましたが、老人に対して約束した、「後期高齢者医療保険の廃止」の方は、何時になるか分からない状態です。次の総選挙まで、今の中途半端な《待ち》の状態が、ずっと続いてしまう可能性が高いですね。

 でも民主党よ。老人は忘れっぽいからと思っていると間違いですよ。確かに、個人個人としての老人は忘れっぽい。しかし、老人党のようなグループになると、忘れっぽくなくなるのです。一人が忘れても、他の誰かが必ず思い出させてくれます。

 老人は忘れていないですよ。次の選挙が怖いですよ、と脅しをかけたいところですが、二大政党時代になると予測していたのに、自民党が崩壊してしまったのが誤算、闘わぬ前に、自分でこけてしまうのは、自分でも格好悪いと思わないのですかね。しかも、公明党が自民党を見限って民主に擦り寄ってきています。接戦のときに、発言力が強まる老人党としては、この状況は想定外です。

 「連立している社民党よ、後期高齢者問題を取り上げろ。老人の票を拾うチャンスだぞ」とでもいっておきましょう。ともかく老人党がこの問題を忘れていないことは強調しておきましょう。



「茜色の雲」



 最近、辻井喬の「茜色の雲」という小説を読みました。小説と銘打っているが、ほぼ大平正芳の忠実な伝記といってよいでしょう。外相のときに佐藤内閣による沖縄返還時の置き土産的密約を知って悩むところがあります。岡田外相に密約問題のヒントを与えたのは、この著者ではないかという気がします。戦後日本の前半の政治史の小説化といってもいいでしょう。

 小説として読めてしまうので、読み出したら、途中でやめられない。ほとんどの関係者が実名で登場します。数人だけが、本名でない。だからこそ、こいつはだれだ、このいやな野郎は!と詮索したくなりますが、それも読者を巻き込むための著者の術かもしれません。

 六〇年安保の時代を政権の側の視線で見せてくれます。そしてあの時代の自分の記憶も、けっこう希薄になってきていることを思い知らされました。鮮明に覚えていたつもりだったことが、思い違いだったりして。

 元青嵐会のメンバーが、定年で追い出される時代なんですねえ。

29:打てば響く 2010年4月11日分転載
 04/18 00:33
【打てば響く】「立ち上がれ日本(ニッポン)」の感想です なだいなだ 2010-4-11

日本はなく、あるのは日本主義というイデオロギー

与謝野、平沼の新党に名前をつけたら、といわれて「じじい民党」と答えましたが、石原慎太郎のネーミングといわれていますが「立ち上がれ日本」になったそうです。
老人たちの集まりだから、老人が応援しませんかといわれましたが、老人党は記憶がいい。

与謝野は麻生内閣の金融財政担当の責任者で「二万円ばら撒き」をやった当事者であり、後期高齢者保険制度を作った自民党の有力議員だった、ことを忘れていない。政治家の未来に向けた美辞麗句に迷わされず、70にもなる人間は「やってきたこれまでの行動で判断する」。
だまされるほどの馬鹿ではない。と答えました。

尋ねてきた新聞記者には、麻生内閣で与謝野が何大臣だったか忘れたの、老人より記憶力が悪いね、アルツハイマーかね、と皮肉をいってやりましたが、もちろんこれは新聞にのりません。
ぼくの推測では、この新党は、小泉純一郎を担いだ「文春、読売系」のジャーナリズムのサポートを受けての新党でしょう。「日本」とは何でしょう。一つにまとめようというイデオロギーです。

しかも自分たちだけが正しい、選挙で勝った民主党に任せていたら亡国だ、その裏側には連立を組んだ少数の社会主義者に引きずられているから亡国だ、という選挙無視の考えが見えます。
民主党が勝ったのは、自民党こそが自分たちの生活をズタズタにしてきた、という選挙民の怒りであり、国民総中流の国から一千万の貧困層に落とされた人たちの意識だったことを、見ようとしない人たちです。

日本を敗戦に導いた職業軍人たちに、平和条約締結と同時に恩給を復活した自民党の右派、国のために命を捧げる、会社のために絶対服従で命をささげる、反対するものは国賊だとか、非日本人だとか、のレッテルを貼る。排除主義の全体主義、その時代の日本はまとまりがあったと郷愁を感じている人々でしょう。

あるのは現実の日本でなく、個々を全体のために奉仕させるカタカナのニッポン主義のみです。
日本はたくさんの人たちの集りです。それを右と左の大きな流れを交代させて、ヨットのように向かい風にもかかわらず帆を滑らせ前進する現実の日本という民主主義の国です。
「ニッポンチャチャチャ、金メダル」の浮かれたテレビジャーナリズムの日本ではありません。

文春は出版不況の今、まだ日本で売れる、という計算があるのでしょう。読売もそうでしょう。
テレビもオリンピックでまだ稼げるなら、日本で稼げるかもしれないと思っているのかもしれません。
俺と一緒に立て、といっても自民党の若手さえついてこない連中に、立ち上がらせる日本というものがあるでしょうか。

30: 打てば響く(5月6日) 転載
北極星 05/07 18:47
5月6日 抑止力なんていってちゃだめ。

鳩山君、君は「沖縄の皆さんにお願いしたい、日本全体のために、米軍の海兵隊基地は、抑止力として必要だ、だから県外移設は実現できない」という。お願いする方向が、間違っているのではないかね。抑止力という観点からすると、海兵隊を沖縄から移すことはできないという考えになってきたというが、戦後六〇年の間、どんな戦争を抑止してきたの?

アメリカは、だれに頼まれて、どこでだれと戦ってきたの? ベトナム、イラク、アフガニスタン、みな日本を守るためだったの?
出撃するとき、日本の許可を得たの?お願いだから、間違いに早く気がついて!
あなたは日本の首相なのだから、沖縄県民のために、オバマにいうべきなの。

「オバマさん、お願いだから、米軍基地をどこか別のところに移してください。
沖縄の人があれほど嫌がっています。移そうとした徳之島の人たちも、嫌だ、といっています。
わたしは、八方ふさがりです。今、日本のどこに喜んで海兵隊を迎え入れるところがあるでしょう。

なだ いなだ という変なじいさんが《大赤字の関空に海兵隊をそっくり移したら》といいますが、その関空への移転という迷案だって、ジョークがジョークでなくなったら、大阪でも大きな反対運動が起きるでしょう。
この現実に目を向けてください。来てくれといっているテニアン移設を考えてください」と。

そして、かれの前で日本式土下座をしておねがいしてごらんなさい。
「まあまあ、それだけはやめて」とオバマも閉口するでしょう。そして引っ張りあげてくれるでしょう。
それを国辱などという人はいませんよ。世界のジャーナリストは喜びます。

そしてあなたは、このパフォーマンスの後、日本国首相を辞職すればいいのです。そうすれば政治生命はうしなわれることはありません。勇気のいることです。肝っ玉のいることです。そのあと、あなたは、選挙民から「帰ってきて」と声がかかります。
その時は、国内問題のどんな難問だって片付けることが出来るでしょう。

31:打てば響く 2011年12月20日分 転載
ビートル 12/24 19:03
なだいなだのサロン『打てば響く』 2011年12月20日分の転載です。

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12月20日

 フランスからです。

 個人的問題。病気の治療の方は順調のようです。マーカーの価は低くなりました。飲んでいる薬、女性ホルモンですが、副作用は全くありません。おっぱいも大きくならなければ、肌もすべすべにならない。食欲も衰えない。副作用を欲張ってみても、あまり意味がないか。
 ともかく、現在のところ、至極元気であり、ご心配には及びません。

 フランスまでの旅は、少し贅沢して、プレミアムというツーリストと、ビジネスのクラスの中間のクラスを利用しましたが、八十歳を越してからは、この席でも、かなり苦痛になってきました。ま、何とか14時間の飛行を乗り切りましたが、正直、余裕はあまり残っていませんでした。あと何回、このような旅ができるかな、という消極的な考えが、頭に浮かびました。

 パリに着いて数日して、金正日の死を知りました。テレビに映し出される、号泣する何人もの北朝鮮の人の姿は、ちょっと異常という印象を受けましたが、日本でも明治天皇が死んだときに、宮城前にいって号泣する人がたくさんいたし、乃木大将夫妻のように殉死などする人もいたのです。北朝鮮を考えるとき、社会的に、100年くらい遅れているという状況を想像するか、日本も百年前はそうだったと思い出すか、ともかく頭を切り替える必要があります。
 後継者が三男に決まったようですが、若くて頼りなげな印象をテレビから受けましたが、これからの難しい状況を、背負っていけるのでしょうか、ちょっと疑問に感じます。

 さて、日本ですが、わがドジョウ首相は、ほとんど自民党と変わりないことが分かってきました。人気急落も当然でしょう。
 問題は橋下新大阪市長です。侮れない人気ですが、年金の考え方などを知ると、この人には、「相互扶助」の考え方が、完全に欠けていると思います。年金は積み立て貯金ではない。高給をもらっている人は、貯金をする余裕もあるはず、支給の上限を設けるべきです。そうでなければ、行き詰まるでしょう。年金で世界一周の船旅などする必要はなく、老後のために貯めてきた貯金で旅行に行けばいいのです。
 相互扶助の考えがなければ、この国の住民としての一体感など生まれようがありません。大震災ばかりでなく、日常のあらゆる場面で、助け合いの精神が見られねばなりません。
 いかに橋下氏に人気が集まろうと、今のままでは、どちらかといえば金持ちクラスの間の人気にとどまるような気がします。かれはもう少し政治哲学を語る必要があります。

 話は変わります。80以上のぼくは、よく戦後の焼け野原と、東北の津波の後の、光景との相似を問われますが、よく似ています。ただ、決定的に違うことは、焼け跡に、勝手にバラックを建てて住む人がいたのに対し、津波の後にまだ、闇市も立たないことです。この違いが戦後の復興のエネルギーと、大震災後のエネルギーの違いのように思えます。闇市を仕切っていたのは、アウトローの雰囲気でした。みな、親分たちでした。戦後の闇市のドキュメントをやらないかな。
 実際、土地の親分が多かった。しかし、この人たちは戦後の社会に次第に組み込まれ、親分たちは都会議員になったり、なかには都会議長になった人もいました。ぼくたちは闇市焼け跡派などと呼ばれることがありましたが、闇市のエネルギーに郷愁を覚える人間です。
 今は闇のエネルギーはどこかに行き見えません。税金待ちばかりです。これでは当然エネルギー不足になるでしょう。

 そんなことを考えています。

32:打てば響く 2011年12月31日分転載
ビートル 12/31 10:43
なだいなだのサロン『打てば響く』12月31日の転載です。


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12月31日 感想です。


 遠く離れてヨーロッパに来てみると、見えないものが見えてくることがあります。
 今日、新聞では1ユーロが100円だと騒いでいました。ぼくが固定相場に戻すべき好機とかつて書いたことがある瞬間です。
 日本では、円安の方が「輸出しやすい、国際競争の点で有利になる」という議論が主流になりますが、こちらでは、輸入品の価額が高くなって、インフレになるという心配の議論が主流です。日本は輸出産業の目でもの見ていて、こちらでは消費者の目でものを見ているということでしょうか。
 ユーロ安で、国際競争力が高まり、輸出しやすくなるのだから、経済に活気が出てくるのではないか、失業が減るのではないか、と言ってみたら、生産拠点を国外に移しているので、ユーロ安になって、フランスブランドの、輸出が増えても、フランスの失業は減らないということです。これではユーロ安を歓迎する人が少なくても当然です。しかし、これが、日本の明日の姿かもしれません。
 フランスの失業者は増え続けています。大統領選ではそこが問題になること必至の状況です。そろそろジャック・ジェネルーという人の本が売れてくるのではないかと思います。この人は、大学の経済学の教授ですが、ぼくなどにも、現代の経済の抱える矛盾を分かりやすく教え、われわれにもできそうな対策を、研究模索している人です。この人の本が読まれるというのは、ぼくにはよい傾向に思われます。

 今年の世界は、どうやら混乱のままに暮れていきそうです。
 闇市焼け跡派は、今こそ元気を出させるべく、行動していきましょう。

 パリから
 なだいなだです

33:打てば響く 2012年1月29日分 転載
ビートル 01/29 16:24
 なだいなだのサロン「打てば響く」2012年1月29日分の転載です。
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1月29日

 感想です(近況はブログの方に書きます)。

 フランスから風邪をお土産に背負って帰ってきました。
 そして、テレビで国会の討論を見ると、日本の政治は相変わらずだな、とため息を漏らしたくなりました。そこに石原、亀井新党なんて変なものが出来そうなことが、新聞に書いてある。これには「冗談でしょ」と思わず出ました。コメントを求められたら、その時も「冗談でしょう」と一言いいます。一言だけ。それくらいにしか値しません。
 前に、出発の時点で1ユーロが100円だったのだから、ユーロが100円になった頃を見計らって、円を対ユーロ固定相場にすればいい、といったことがありました。計算もしやすくなる。為替相場を気にせず、安心して取引もできる。輸出産業もユーロ建てで輸出入すれば、為替変動で、損することも心配せず、安心して商売できる。ユーロも日本のおかげで安定する。
 アメリカも基軸通貨ドルの上に胡坐をかいて、世界をインフレの道連れに出来ない。
 オバマ政権は2パーセントのインフレ覚悟の経済政策をとろうとしている。あまりにも、自己中心的だ。だからこそ固定相場制にという提案。
 アメリカの反撥は怖いけれど、怖がっていたら、恐怖政治に賛成ということになってしまう。日本の政治家は、アメリカと対等に発言できるようにならなければ、一人前とはいえない。安保理常任理事国なんて、金で票を拾わなければ、選出されません。沖縄問題もいつまでたっても、解決できない。
 あまりにも急に1ユーロ100円が来てしまったけれど、もう一度、固定相場に戻ったら、そうEUにも提案したい。これは、自分でいってしまうのは、興醒めだけど、あえていいます。この案、現代国際政治のコロンブスの卵かもしれない。

34:打てば響く 2012年2月20日分転載
ビートル 02/20 19:22
 なだいなだのサロン「打てば響く」2012年2月20日分を転載します。


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2月20日

 感想です。
 最近の日本における出来事を見ながら、82歳の老人として、感想を書きます。
 橋下大阪市長と維新の会の勢いが止まりません。かれは確かに大衆受けする存在です。かれなら、なにかやってくれるのではないか、と現在の霞が関の政治家に絶望感を抱く人たちは、大阪に目を向けたくなります。「大阪都を」という主張は、大阪府より、大阪市の方が存在感がある現状では、一体化によって行政の簡素化になるのは確実だから、きっと税金が安くなるだろうという期待を抱かせます。しかし、そこまではいいとして、勢いに乗って、国政にまで、乗り出してきたときの、かれが(若いので必ず自分から出なくても、担ぎ出されて登場する場面があるかもしれない)どのような国あるいは社会のあり方を目指すのか、不安を抱く人もいるでしょう。
 こういう時、老人は思い出します。これが老人の強みです。いたずらに恐怖心も抱かなければ、期待も抱かない。つまり比較的冷静に見られるのです。
 もちろん危険も目に入ります。たとえば橋下市長のもとに集まる人たちの会の名前です。「維新の会」だそうです。この維新という言葉、明治維新が有名ですが、ぼくの耳には、同時に昭和維新という言葉も反響します。昭和維新は昭和の軍部若手の将校たちが、社会を改革しようと志した時に、自分たちの行動目的として掲げた言葉です。左翼の革命をあえて避けて用いた言葉です。そして、かれらは挫折し、挫折させた人々が、この言葉の魔力を引き継いで、日本を戦争に引っ張っていきました。その時のことを生々しく記憶するのが老人党世代です。
 ぼくは軍隊の学校に行きましたが、この言葉を何度聞かされたことか。それによって生まれたイメージがあり、それに対するこころの中の反発があります。自分では、自分の運動をそう名付けようなどという発想は、持てません。こころの中に抵抗感があってつぶされてしまいます。到底使う気になりません。
 使っている人たちが、あの時代について無知であることも危惧します。知らなければ、警戒心もわかないでしょう。かれらが力を得た後に、登場してくる勢力を、どうしても危惧してしまいます。

 今日はここまでとします。
 そのほか、戦後に急速に勢力を伸ばした政治勢力についての思い出話というか、歴史的回顧は、(フランスのプジャーディスト運動や、ル・ペンの国民戦線運動などの、公明党も含め)連載などの一仕事を終えた後に書きます。それまで少し待ってください。
 ぼくの体調は、心配ありません。心配してくれる人に、心配して損したといわれるほど、少なくとも見た目には元気いっぱいです。

35:打てば響く 2012年3月22日分転載
ビートル 03/22 22:45
 打てば響く(『なだいなだのサロン』コラム)3月22日の記事の転載です。


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3月22日 感想

 婦人之友の次号の原稿を送った。
 日本の代表的な銀行の勧めで、アメリカの生命保険を買い、利子は日本の銀行利子の数倍付いたが、この円高ドル安で、結果的に大損をした。普通預金に入れっぱなしの貯金に目をつけられ、資産運用しろと勧められ、しつこい勧誘についにイエスといってしまった結果が、数百万円の損。最近の一年の収入に当たる額だ。もう資産運用等という言葉は聞きたくない。
 この経験から、投資顧問会社に年金運用を任せるよりは、日本の未来を買え。日本のインフラに投資しろ。年金は、お金を長い間積立て、寝かせて、未来で受け取るものだ。自分の老後を任せる日本に投資し、より住みやすくする目的に使ってもらうのが利口だ。自分の老後を任せる若い世代の職を確保することもできれば、一石二鳥。
 赤字国債ではなく、新幹線やローカル線などの建設のための国債を買えばいい。新幹線など、札幌まで、早く開通させるがいい。山陰、北陸の新幹線も、どんどん建設をすすめる。税金から出すのではなく、年金基金から出せばいいのだ。アメリカの生命保険や国債などのいわゆる金融商品を売り買いして、利益を出そう等という連中にお金を預けるな。という趣旨のエッセイ。

 ちくまの連載の原稿は、現在進行中のフランス大統領選挙のジャン・リュック・メランション候補について書いた。
 年末・正月をフランスで過ごしたが、その時「ジャン・リュック・メランション候補に聞く」というフランス2局の番組を視聴して、初めてかれの映像に接する。その前に、かれの著書は少し読んでいた。そのとき、過去の、群衆を前にしての演説や、政治討論などの映像の抜粋も紹介された。視聴して、昔からぼくが抱いていた政治家像ぴったりの人間を彼の中に見た。ユーモアのある政治家、難しい政治経済の状況をやさしく説明できる政治家。そういう状況で、ぼくたちに、今何をなすべきかを示せる政治家。しかし、かれは共産党に支持されているという理由で、フランスのマスコミからボイコットされ、かれの主張は、ほとんどメディアを通じては国民に届かなかった。だが、おもしろおかしい、肩のこらない、元気の出る演説で、少しずつ支持を広げ、今では無視できない存在になってきた。この番組を見た視聴者が、かれに魅了され、支持率が倍増したという。
 正月以来、ぼくはかれの記事をおい続けている。つい最近は、大統領選挙開始に合わせ、バスチーユ広場へ、という決起集会を開いた。その日集まったのは12万人。メーデーでも集まらないような人が集まった。
 4月の22日の投票日まで、あとひと月ある。その間に、かれが上位三人との差をどこまで縮めることができるか。リレーでも、下から上がってきて、上位を一人二人と抜き去るシーンを見ると、誰でも興奮する。今度のフランス大統領選挙では、そういう興奮を感じることが出来るかもしれない。抜いてくれれば、ストレスは最大限発散できるだろう。ギリギリまで迫ってくれても、かなりの発散が可能だ。旧ソビエトの崩壊後、うっとおしい空気の中でずっと生き続けてきた労働者たちも、久々に、応援できる対象が見つかった。
 日本にも、こんなタイプの政治家が、左派から出てきて欲しい。自民、民主に飽きた日本の大衆が、日本のル・ペンのような橋下大阪市長に騙されるのを防ぐためにも。

36:打てば響く 2012年4月10日分 転載
ビートル 04/11 20:01
なだいなだのサロン「打てば響く」、2012年4月10日の記事の転載です。


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4月10日 ぼくは怒っている。

 消費者物価が下がっているだと!たわごとだ。こんなヴァーチャルな数字に騙されるな!コメとコンピュータと自動車を足して割って、物価の平均だと。
 消費者物価がデフレで下がった分、公務員給与を下げ、それに比例して年金を下げるということだ。驚いたことに、年金(ぼくはもらっていない)受給者の老人たちから、強力な反対意見が現れない。みな、諦めムードなのだろうか。これではますますデフレになるばかりだ。消費者物価が下がっているなどと、いっている政治家官僚は、どこに目をつけているのだろう。スーパーに買い物に行ってみろ。
 はっきりしているのは、かれらが現実には目を向けていないことだ。自動車だとかコンピュータだとか、数年に一度(ぼくなど自動車は10数年に一度だ)の買う物と、コメだとか野菜だとか毎日買うものを混ぜて出したヴァーチャルな平均の数値だけを見ていっているのだろう。庶民の感覚、毎日生きるために買い物をしているものの感覚では、ガソリンが値上がりし、野菜も値上がりし、肉も魚も値上がりし、値上がりの瞬間風速は、もう大変なインフレといっていい。
 このあいだ、ゆとり教育で、数学の基礎ができていない大学生が増えたと、数学者が記者会見を開いて、警告していた。その問題の一つが平均の問題だった。「あるグループの平均値は、グループの大多数の値に一致する。正しいか、間違いか」正解は間違いだが、最近の大学生は正しいと答えるそうだ。この数学者たちは、コントロールをとったのだろうか。それとも大学生にだけ質問して、ゆとり教育の結果学力が低下したと結論したのだろうか。ぼくは、この数学者の学力がかなり低下していることを憂えた。コントロールの値と比べないで結論を出すなんて研究者として論外だ。実は、この問題には、多くの人が引っかかるのだ。大金持ちが仲間にくわわると、そのグループの平均所得は実感より上の方にずれる。それなのに、大多数がその所得だと思い違いしているものが多い。政治家官僚に特に多いのだ。日銀総裁に同じ質問をしたらどうだろう。間違いに気が付けば、年間1%のインフレ等という努力目標を、持ち出すはずがない。日銀が円の守護者でなくなるのなら、総裁の給料を返上しなさい。喜んでいるのは大企業のための政治家、自称どじょう総理大臣くらいだ。庶民はインフレに大反対だ。インフレ率1%。定期預金の利率を据え置くなら、庶民の貯金は確実に1%目減りする勘定だ。だれが賛成する。
 アダムスミスは、経済の目的は、国民の大多数を富ませることであって、平均値で富ませることではない。国民の大多数を富ませることであって、国を富ませることではない。国を強くすることでもない、と考えていた。倫理感の強いどころか、倫理学の教授であったアダムスミスを読み直してみるがいい。「一将功なりて万骨枯る」ではいけない、国が富んで、国民の大多数が疲弊するのはいけない。アメリカの住民は宗主国の王様を富ませるためにあるのではない。独立しなさいと、自身は英国民であったかれが、アメリカに独立を勧めたのだ。国民飢えて、ロケット上がるの北朝鮮のことを、インフレを目標とすると口走る今の日本の指導者が批判できるか。
 あまり腹が立ったので、すこしまとまりがなくなった。でも、もう少し、みなも怒った方がいい。

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