打てば響く(『なだいなだのサロン』コラム) 転載

31:打てば響く 2011年12月20日分 転載
ビートル 12/24 19:03
なだいなだのサロン『打てば響く』 2011年12月20日分の転載です。

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12月20日

 フランスからです。

 個人的問題。病気の治療の方は順調のようです。マーカーの価は低くなりました。飲んでいる薬、女性ホルモンですが、副作用は全くありません。おっぱいも大きくならなければ、肌もすべすべにならない。食欲も衰えない。副作用を欲張ってみても、あまり意味がないか。
 ともかく、現在のところ、至極元気であり、ご心配には及びません。

 フランスまでの旅は、少し贅沢して、プレミアムというツーリストと、ビジネスのクラスの中間のクラスを利用しましたが、八十歳を越してからは、この席でも、かなり苦痛になってきました。ま、何とか14時間の飛行を乗り切りましたが、正直、余裕はあまり残っていませんでした。あと何回、このような旅ができるかな、という消極的な考えが、頭に浮かびました。

 パリに着いて数日して、金正日の死を知りました。テレビに映し出される、号泣する何人もの北朝鮮の人の姿は、ちょっと異常という印象を受けましたが、日本でも明治天皇が死んだときに、宮城前にいって号泣する人がたくさんいたし、乃木大将夫妻のように殉死などする人もいたのです。北朝鮮を考えるとき、社会的に、100年くらい遅れているという状況を想像するか、日本も百年前はそうだったと思い出すか、ともかく頭を切り替える必要があります。
 後継者が三男に決まったようですが、若くて頼りなげな印象をテレビから受けましたが、これからの難しい状況を、背負っていけるのでしょうか、ちょっと疑問に感じます。

 さて、日本ですが、わがドジョウ首相は、ほとんど自民党と変わりないことが分かってきました。人気急落も当然でしょう。
 問題は橋下新大阪市長です。侮れない人気ですが、年金の考え方などを知ると、この人には、「相互扶助」の考え方が、完全に欠けていると思います。年金は積み立て貯金ではない。高給をもらっている人は、貯金をする余裕もあるはず、支給の上限を設けるべきです。そうでなければ、行き詰まるでしょう。年金で世界一周の船旅などする必要はなく、老後のために貯めてきた貯金で旅行に行けばいいのです。
 相互扶助の考えがなければ、この国の住民としての一体感など生まれようがありません。大震災ばかりでなく、日常のあらゆる場面で、助け合いの精神が見られねばなりません。
 いかに橋下氏に人気が集まろうと、今のままでは、どちらかといえば金持ちクラスの間の人気にとどまるような気がします。かれはもう少し政治哲学を語る必要があります。

 話は変わります。80以上のぼくは、よく戦後の焼け野原と、東北の津波の後の、光景との相似を問われますが、よく似ています。ただ、決定的に違うことは、焼け跡に、勝手にバラックを建てて住む人がいたのに対し、津波の後にまだ、闇市も立たないことです。この違いが戦後の復興のエネルギーと、大震災後のエネルギーの違いのように思えます。闇市を仕切っていたのは、アウトローの雰囲気でした。みな、親分たちでした。戦後の闇市のドキュメントをやらないかな。
 実際、土地の親分が多かった。しかし、この人たちは戦後の社会に次第に組み込まれ、親分たちは都会議員になったり、なかには都会議長になった人もいました。ぼくたちは闇市焼け跡派などと呼ばれることがありましたが、闇市のエネルギーに郷愁を覚える人間です。
 今は闇のエネルギーはどこかに行き見えません。税金待ちばかりです。これでは当然エネルギー不足になるでしょう。

 そんなことを考えています。

32:打てば響く 2011年12月31日分転載
ビートル 12/31 10:43
なだいなだのサロン『打てば響く』12月31日の転載です。


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12月31日 感想です。


 遠く離れてヨーロッパに来てみると、見えないものが見えてくることがあります。
 今日、新聞では1ユーロが100円だと騒いでいました。ぼくが固定相場に戻すべき好機とかつて書いたことがある瞬間です。
 日本では、円安の方が「輸出しやすい、国際競争の点で有利になる」という議論が主流になりますが、こちらでは、輸入品の価額が高くなって、インフレになるという心配の議論が主流です。日本は輸出産業の目でもの見ていて、こちらでは消費者の目でものを見ているということでしょうか。
 ユーロ安で、国際競争力が高まり、輸出しやすくなるのだから、経済に活気が出てくるのではないか、失業が減るのではないか、と言ってみたら、生産拠点を国外に移しているので、ユーロ安になって、フランスブランドの、輸出が増えても、フランスの失業は減らないということです。これではユーロ安を歓迎する人が少なくても当然です。しかし、これが、日本の明日の姿かもしれません。
 フランスの失業者は増え続けています。大統領選ではそこが問題になること必至の状況です。そろそろジャック・ジェネルーという人の本が売れてくるのではないかと思います。この人は、大学の経済学の教授ですが、ぼくなどにも、現代の経済の抱える矛盾を分かりやすく教え、われわれにもできそうな対策を、研究模索している人です。この人の本が読まれるというのは、ぼくにはよい傾向に思われます。

 今年の世界は、どうやら混乱のままに暮れていきそうです。
 闇市焼け跡派は、今こそ元気を出させるべく、行動していきましょう。

 パリから
 なだいなだです

33:打てば響く 2012年1月29日分 転載
ビートル 01/29 16:24
 なだいなだのサロン「打てば響く」2012年1月29日分の転載です。
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1月29日

 感想です(近況はブログの方に書きます)。

 フランスから風邪をお土産に背負って帰ってきました。
 そして、テレビで国会の討論を見ると、日本の政治は相変わらずだな、とため息を漏らしたくなりました。そこに石原、亀井新党なんて変なものが出来そうなことが、新聞に書いてある。これには「冗談でしょ」と思わず出ました。コメントを求められたら、その時も「冗談でしょう」と一言いいます。一言だけ。それくらいにしか値しません。
 前に、出発の時点で1ユーロが100円だったのだから、ユーロが100円になった頃を見計らって、円を対ユーロ固定相場にすればいい、といったことがありました。計算もしやすくなる。為替相場を気にせず、安心して取引もできる。輸出産業もユーロ建てで輸出入すれば、為替変動で、損することも心配せず、安心して商売できる。ユーロも日本のおかげで安定する。
 アメリカも基軸通貨ドルの上に胡坐をかいて、世界をインフレの道連れに出来ない。
 オバマ政権は2パーセントのインフレ覚悟の経済政策をとろうとしている。あまりにも、自己中心的だ。だからこそ固定相場制にという提案。
 アメリカの反撥は怖いけれど、怖がっていたら、恐怖政治に賛成ということになってしまう。日本の政治家は、アメリカと対等に発言できるようにならなければ、一人前とはいえない。安保理常任理事国なんて、金で票を拾わなければ、選出されません。沖縄問題もいつまでたっても、解決できない。
 あまりにも急に1ユーロ100円が来てしまったけれど、もう一度、固定相場に戻ったら、そうEUにも提案したい。これは、自分でいってしまうのは、興醒めだけど、あえていいます。この案、現代国際政治のコロンブスの卵かもしれない。

34:打てば響く 2012年2月20日分転載
ビートル 02/20 19:22
 なだいなだのサロン「打てば響く」2012年2月20日分を転載します。


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2月20日

 感想です。
 最近の日本における出来事を見ながら、82歳の老人として、感想を書きます。
 橋下大阪市長と維新の会の勢いが止まりません。かれは確かに大衆受けする存在です。かれなら、なにかやってくれるのではないか、と現在の霞が関の政治家に絶望感を抱く人たちは、大阪に目を向けたくなります。「大阪都を」という主張は、大阪府より、大阪市の方が存在感がある現状では、一体化によって行政の簡素化になるのは確実だから、きっと税金が安くなるだろうという期待を抱かせます。しかし、そこまではいいとして、勢いに乗って、国政にまで、乗り出してきたときの、かれが(若いので必ず自分から出なくても、担ぎ出されて登場する場面があるかもしれない)どのような国あるいは社会のあり方を目指すのか、不安を抱く人もいるでしょう。
 こういう時、老人は思い出します。これが老人の強みです。いたずらに恐怖心も抱かなければ、期待も抱かない。つまり比較的冷静に見られるのです。
 もちろん危険も目に入ります。たとえば橋下市長のもとに集まる人たちの会の名前です。「維新の会」だそうです。この維新という言葉、明治維新が有名ですが、ぼくの耳には、同時に昭和維新という言葉も反響します。昭和維新は昭和の軍部若手の将校たちが、社会を改革しようと志した時に、自分たちの行動目的として掲げた言葉です。左翼の革命をあえて避けて用いた言葉です。そして、かれらは挫折し、挫折させた人々が、この言葉の魔力を引き継いで、日本を戦争に引っ張っていきました。その時のことを生々しく記憶するのが老人党世代です。
 ぼくは軍隊の学校に行きましたが、この言葉を何度聞かされたことか。それによって生まれたイメージがあり、それに対するこころの中の反発があります。自分では、自分の運動をそう名付けようなどという発想は、持てません。こころの中に抵抗感があってつぶされてしまいます。到底使う気になりません。
 使っている人たちが、あの時代について無知であることも危惧します。知らなければ、警戒心もわかないでしょう。かれらが力を得た後に、登場してくる勢力を、どうしても危惧してしまいます。

 今日はここまでとします。
 そのほか、戦後に急速に勢力を伸ばした政治勢力についての思い出話というか、歴史的回顧は、(フランスのプジャーディスト運動や、ル・ペンの国民戦線運動などの、公明党も含め)連載などの一仕事を終えた後に書きます。それまで少し待ってください。
 ぼくの体調は、心配ありません。心配してくれる人に、心配して損したといわれるほど、少なくとも見た目には元気いっぱいです。

35:打てば響く 2012年3月22日分転載
ビートル 03/22 22:45
 打てば響く(『なだいなだのサロン』コラム)3月22日の記事の転載です。


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3月22日 感想

 婦人之友の次号の原稿を送った。
 日本の代表的な銀行の勧めで、アメリカの生命保険を買い、利子は日本の銀行利子の数倍付いたが、この円高ドル安で、結果的に大損をした。普通預金に入れっぱなしの貯金に目をつけられ、資産運用しろと勧められ、しつこい勧誘についにイエスといってしまった結果が、数百万円の損。最近の一年の収入に当たる額だ。もう資産運用等という言葉は聞きたくない。
 この経験から、投資顧問会社に年金運用を任せるよりは、日本の未来を買え。日本のインフラに投資しろ。年金は、お金を長い間積立て、寝かせて、未来で受け取るものだ。自分の老後を任せる日本に投資し、より住みやすくする目的に使ってもらうのが利口だ。自分の老後を任せる若い世代の職を確保することもできれば、一石二鳥。
 赤字国債ではなく、新幹線やローカル線などの建設のための国債を買えばいい。新幹線など、札幌まで、早く開通させるがいい。山陰、北陸の新幹線も、どんどん建設をすすめる。税金から出すのではなく、年金基金から出せばいいのだ。アメリカの生命保険や国債などのいわゆる金融商品を売り買いして、利益を出そう等という連中にお金を預けるな。という趣旨のエッセイ。

 ちくまの連載の原稿は、現在進行中のフランス大統領選挙のジャン・リュック・メランション候補について書いた。
 年末・正月をフランスで過ごしたが、その時「ジャン・リュック・メランション候補に聞く」というフランス2局の番組を視聴して、初めてかれの映像に接する。その前に、かれの著書は少し読んでいた。そのとき、過去の、群衆を前にしての演説や、政治討論などの映像の抜粋も紹介された。視聴して、昔からぼくが抱いていた政治家像ぴったりの人間を彼の中に見た。ユーモアのある政治家、難しい政治経済の状況をやさしく説明できる政治家。そういう状況で、ぼくたちに、今何をなすべきかを示せる政治家。しかし、かれは共産党に支持されているという理由で、フランスのマスコミからボイコットされ、かれの主張は、ほとんどメディアを通じては国民に届かなかった。だが、おもしろおかしい、肩のこらない、元気の出る演説で、少しずつ支持を広げ、今では無視できない存在になってきた。この番組を見た視聴者が、かれに魅了され、支持率が倍増したという。
 正月以来、ぼくはかれの記事をおい続けている。つい最近は、大統領選挙開始に合わせ、バスチーユ広場へ、という決起集会を開いた。その日集まったのは12万人。メーデーでも集まらないような人が集まった。
 4月の22日の投票日まで、あとひと月ある。その間に、かれが上位三人との差をどこまで縮めることができるか。リレーでも、下から上がってきて、上位を一人二人と抜き去るシーンを見ると、誰でも興奮する。今度のフランス大統領選挙では、そういう興奮を感じることが出来るかもしれない。抜いてくれれば、ストレスは最大限発散できるだろう。ギリギリまで迫ってくれても、かなりの発散が可能だ。旧ソビエトの崩壊後、うっとおしい空気の中でずっと生き続けてきた労働者たちも、久々に、応援できる対象が見つかった。
 日本にも、こんなタイプの政治家が、左派から出てきて欲しい。自民、民主に飽きた日本の大衆が、日本のル・ペンのような橋下大阪市長に騙されるのを防ぐためにも。

36:打てば響く 2012年4月10日分 転載
ビートル 04/11 20:01
なだいなだのサロン「打てば響く」、2012年4月10日の記事の転載です。


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4月10日 ぼくは怒っている。

 消費者物価が下がっているだと!たわごとだ。こんなヴァーチャルな数字に騙されるな!コメとコンピュータと自動車を足して割って、物価の平均だと。
 消費者物価がデフレで下がった分、公務員給与を下げ、それに比例して年金を下げるということだ。驚いたことに、年金(ぼくはもらっていない)受給者の老人たちから、強力な反対意見が現れない。みな、諦めムードなのだろうか。これではますますデフレになるばかりだ。消費者物価が下がっているなどと、いっている政治家官僚は、どこに目をつけているのだろう。スーパーに買い物に行ってみろ。
 はっきりしているのは、かれらが現実には目を向けていないことだ。自動車だとかコンピュータだとか、数年に一度(ぼくなど自動車は10数年に一度だ)の買う物と、コメだとか野菜だとか毎日買うものを混ぜて出したヴァーチャルな平均の数値だけを見ていっているのだろう。庶民の感覚、毎日生きるために買い物をしているものの感覚では、ガソリンが値上がりし、野菜も値上がりし、肉も魚も値上がりし、値上がりの瞬間風速は、もう大変なインフレといっていい。
 このあいだ、ゆとり教育で、数学の基礎ができていない大学生が増えたと、数学者が記者会見を開いて、警告していた。その問題の一つが平均の問題だった。「あるグループの平均値は、グループの大多数の値に一致する。正しいか、間違いか」正解は間違いだが、最近の大学生は正しいと答えるそうだ。この数学者たちは、コントロールをとったのだろうか。それとも大学生にだけ質問して、ゆとり教育の結果学力が低下したと結論したのだろうか。ぼくは、この数学者の学力がかなり低下していることを憂えた。コントロールの値と比べないで結論を出すなんて研究者として論外だ。実は、この問題には、多くの人が引っかかるのだ。大金持ちが仲間にくわわると、そのグループの平均所得は実感より上の方にずれる。それなのに、大多数がその所得だと思い違いしているものが多い。政治家官僚に特に多いのだ。日銀総裁に同じ質問をしたらどうだろう。間違いに気が付けば、年間1%のインフレ等という努力目標を、持ち出すはずがない。日銀が円の守護者でなくなるのなら、総裁の給料を返上しなさい。喜んでいるのは大企業のための政治家、自称どじょう総理大臣くらいだ。庶民はインフレに大反対だ。インフレ率1%。定期預金の利率を据え置くなら、庶民の貯金は確実に1%目減りする勘定だ。だれが賛成する。
 アダムスミスは、経済の目的は、国民の大多数を富ませることであって、平均値で富ませることではない。国民の大多数を富ませることであって、国を富ませることではない。国を強くすることでもない、と考えていた。倫理感の強いどころか、倫理学の教授であったアダムスミスを読み直してみるがいい。「一将功なりて万骨枯る」ではいけない、国が富んで、国民の大多数が疲弊するのはいけない。アメリカの住民は宗主国の王様を富ませるためにあるのではない。独立しなさいと、自身は英国民であったかれが、アメリカに独立を勧めたのだ。国民飢えて、ロケット上がるの北朝鮮のことを、インフレを目標とすると口走る今の日本の指導者が批判できるか。
 あまり腹が立ったので、すこしまとまりがなくなった。でも、もう少し、みなも怒った方がいい。

37:打てば響く 2012年6月6日分 転載
ビートル 06/07 20:48
 なだいなだのサロンのコラム『打てば響く』2012年6月6日分の転載です。

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6月6日 オランド新フランス大統領就任の感想

 フランスの大統領選挙は、オランドの当選で終わった。
 オランドってだれ?フランスの社会党には、ユダヤ系のフランス人が多い。DSKことドミニク・ストロス・カーンがそうだ。元蔵相、IMF前専務理事で、有力大統領候補と目されていたが、セックススキャンダルで辞職した。それが間接的にオランド大統領に繋がった。DSKがコケたから、オランドが急浮上したのだ。外務大臣に就任したファビウス元首相もユダヤ系。保守のサルコジ前大統領もそうだった。サルコジと同じ党で、現幹事長のフランソワ・コぺもユダヤ系。ルーマニアからの移民でもある。サルコジはハンガリーからの移民である。今回は、ユダヤ系とユダヤ系の候補者の決選投票ということになったわけだ。新しい移民のユダヤ系と、フランスに何世代も前から住み着いているユダヤ系との戦いだ。DSKが候補だったとしても、ユダヤ系同士の対決ということになっていた。次の大統領選挙で自分の出番を狙っているコぺが、オランドに挑戦すれば、またユダヤ系対決になる。
 政治家以外にもフランスにはユダヤ人が多い。哲学者にも作家にも、ユダヤ人は多い。ベルナール・アンリ・レヴィーもそうだし、レヴィー・ストロースもそうだ。レヴィー・ストロースとベルナール・アンリ・レヴィーを並べたくないが。こうして、だれがユダヤ人というかユダヤ系というか、名を挙げているうちに、ユダヤ人があまりに多くて、ユダヤ人ということは、人ということに変わらないことに気がついた。
 人にいろいろあるように、ユダヤ人にもいろいろあるのだ。ともかく、今回のフランス大統領選挙はユダヤ人とユダヤ人との争いだっということになる。だが、この二人には仲間意識はないらしい。当選してからの引き継ぎも、実にそっけなかった。
 オランドという名前は、パリに亡命していたハインリッヒハイネ(かれもユダヤ人だ)の書いたものの中に出てくる。当時の銀行家で、資産家で、同時にアナーキストのサポーターだったということだ。ま、パリではマルクスがその後活躍するようになる時代だ。ぼくはオランドはこの銀行家の直接の子孫かと思ったが、遠い祖先にそういう人がいた、という程度の関係はあるかもしれない。はっきりしているのは、直接のかれの父親は耳鼻咽喉科の医者で、母親はソーシャルワーカーだということだ。
 かれは、どこか頼りない感じで、それゆえ、第一書記のポスト在任期間はミッテラン元大統領を抜いて、結党以来最長だったが、かれはその間、大統領候補としては二番手どころか、三番手、四番手だった。前回はかれの事実婚のパートナーでかれとの間に4人の子供のいるセゴレーヌ・ロワイヤルが大統領候補に推された。ロワイヤルがサルコジとの決選投票で落選したあと、二人は事実婚関係を解消した。オランドはセゴレーヌ・ロワイヤルを積極的に支援しな
かったが、今回、別れたあとだったが、セゴレーヌ・ロワイヤルは、積極的にかれを支援して、キャンペーン活動をした。しかし、早々に閣僚には入らないと表明した。

 オランドは、当選したあと、直ぐに大統領の給与と、大臣の給与を30%カットし、閣僚の半数は女性から選ぶという原則を決め、それを貫いた。給与カットするのは、予算もいらないから簡単にすぐに出来る。閣僚の半数を女性にするというのも、予算措置は不要だから、簡単にできる。党内のアンティ・フェミニストを黙らせるだけでいい。女性から要求されぬうちにやったのは、二重丸を上げてもいいだろう。
 かれが、財政締め付けよりも、経済成長を主張し、大統領就任直後のメルケルドイツ首相との会談でも妥協しなかったために、ユーロは売られ、記録的下値をつけたが、決して慌てなかったことには、丸をあげてもいい。いわゆる投機マネーの脅しに屈しない姿勢を見せたことで、しばらくは投機マネーも派手な動きは出来まい。そして投機マネーが短期に移動しないように、税をかけることに成功すれば、三重丸ぐらいやってもいいだろう。しかしこれは、そう簡単にはできまい。まず、下院議員選挙で勝つことが必要だ。その投票がまもなくある。
 フランス議会選挙の結果がどうなるか、大統領選挙以上に重要かもしれない。
 ま、日本の政治家と、比べてみるのもいいだろう。ぼくは決してオランドに期待はしていない。オランドを勝たせた、格差と失業を増大させてきたヨーロッパの状況こそが、圧力となって、かれを動かす力だからだ。主役はかれを選んだ国民だ。

38:打てば響く 2012年6月29日分 転載
ビートル 06/30 14:23
 なだいなだのサロン、コラム『打てば響く』2012年6月29日の記事を転載します。

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6月29日 松下政経塾の思想

 今度の、消費増税法をどう評価するか。衆院可決後の、各界の反応なるものを見れば直ぐに分かる。消費者はため息をついている。野田は、消費者のためには働かなかった。単純にテレビに出てくる顔を見ていれば、野田ドジョウの仕事が、だれのためか分かる。喜んだ人たち、満足した人たちは、だれだったか。財界は大満足だった。自分たちが、その分だけ課税を免れるからだ。消費者以外に困った人たちは?中小企業、ことに中小の商店や、飲食店だ。
 自民党、公明党はなぜ、野田に協力したのか。自分たちの働きを、喜んだ人たちに、見てもらうためだった。いい子でしょう、というわけだ。
 しかし、協力したのに、最大の功労者は野田だなどと、財界に評価されたら困る。それで、複雑な顔をしているのだ。三党協力しておいて、選挙はなんで争うというのか。
 次の選挙で、大企業の選挙に対する資金的係わりを、よく監視することだ。
 政党に寄付する余力があるなら、その分税金を払えばいい。国の財政を憂えるなら、まず税金を払え。政党はちゃんと政党への交付金をもらっているのだ。選挙はその範囲でやればいい。免税の寄付はいらない。
 公明党も、創価学会が、宗教を隠れ蓑に税金を払っていない点を突かれるのが怖いので、必死になって、消費税増税に賛成した。今、ハコモノをたくさん作っているのは創価学会だ。
 消費税を福祉と結びつけるなどというが、竹下内閣の消費税導入の口実は将来の福祉への備えだった。これまでの消費税が、目的以外に使われていたことがおかしい。
 そもそも、年金が不足したのは、運用の誤りで、ドル建て債券をたくさん買い込んで利子を儲けようとしたところにある。わずかの利子の儲け分など、ドル安でふっとんだ。その間違いを、消費税で補おうとしているだけだ。まず、その失敗の責任者を、はっきりさせることだ。
 ヨーロッパは、財政的な切り詰めだけを目指す、これまでの保守派の政策が見直されつつある。ユーロの導入は、財政の統合努力なしに、通貨の共通化を先取りしたものだ。その矛盾が今現れている。
 オランドがフランスの大統領になってから、財政赤字を増やさぬ努力をしながらも、公共投資を増やそうという方向を目指し始めた。
 日本も、真似をして、新幹線建設を進めるという、方針を明らかにしたが、それを税金から出すからいけない。今の銀行の定期預金より少し高めの新幹線建設国債を発行すればいい。そして、地方の新幹線は、郵便、宅急便に利用させればいい。東京大阪間は少々過密だが、それ以外の新幹線には余裕が十分にある。東北新幹線の貨物利用は、さほどの投資もせず、流通に大いに効果を上げられる。法律を少し変える必要はあるだろうが。
 新幹線は、国債の売れ具合によって進めればいい。ぼくは外債にはこりた。これからは日本の未来に投資する。そういう老人も多いはず。大損するより、インフレヘッジ位の安い金利でいい。老人が、若者の失業対策にも少しは役立てる。
 大まかな線だが、社会党、共産党あたりが、もう少し肉付けをして、次の選挙に国民に訴えて見たらどうか。
 大飯原発の再稼働でも、野田ドジョウは、財界のために泥にまみれて働いた。かれの決断で喜んだ顔を思い浮かべればいい。国家を第一に考え、国家なるもののために、国民に犠牲を強いる。その思想がどうやら松下政経塾出身者に共通のものらしい。

39:打てば響く 2012年8月11・12日分 転載
ビートル 08/12 23:00
なだいなだのサロン、コラム『打てば響く』2012年8月11日と12日の記事を転載します。


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8月11日 外交というもの

 外交にしばしば加えられる非難、《弱腰》について考えよう。竹島に李韓国大統領が上陸したことに対する日本の反応は、強硬な抗議声明の形をとった。それだけでは不十分だと思ってか、韓国駐在大使を一時引き揚げるという。外交関係を中断することになる。
 だが、これでどんな結果が期待できよう。相手の謝罪を引き出すことができるか。出来るはずがない。しばらくすると、大使を戻す、何かの口実を探すことになるだろう。もっと強腰ということになると、この島を実力で奪い返すことだ。石原都知事だったらやりかねない。しかし、それは戦争の始まりだ。小さな島が戦争の火種になる。
 昔だったら、とっくに戦争が始まっていただろう。だが日本には平和憲法がある。初めから戦争の手段は取れない。すると、だから、日本は舐められている、と非難するものが出てくる。だが、舐められているという人間は、じゃあ喧嘩を売るのだろうか。国際間の喧嘩は戦争だ。戦争をしろというのか。そこまでやれとは言っていないなどと、意見を引っ込める。それよりいい手段はないのか。
 こういう時は、首相談話で、「強硬な態度を取れ、舐められるな、という人がいるが、その人には、《右の頬を打たれたら、左の頬をだしなさい》といったイエスの言葉を返すしかない。小さい島に過ぎなくとも、領土問題は、実に厄介な問題で、昔は戦争の原因になった。これが愚行だということを我々は知っている。こういう問題こそ、武力ではなくて、両国の政治家が叡智と善意を絞って平和的に解決するしかない。今こそ、強硬な姿勢より、叡智を示すことが必要だ」と相手の大統領に呼びかけたらどうだ。もちろん狙いは韓国の世論だ。韓国の強硬な世論に、少しでも変化を起こすことができたら、領土問題を棚上げにすることもできる。これは日韓のあいだに刺さった刺だ。棚上げにして永久に平和的な関係を結ぼう、という落としどころしかありえない。それが、現代の世界の常識だ。
 強硬姿勢で、国民を感情的に煽るのは、いわゆるポピュリストの政治家だ。叡智のない政治では、出口が見つけられない。


8月12日 消費税増税の法案成立に際しての感想

 誰のための、消費税増税か。
 野田政権は、結局は、増税のための保守大連合を実現した。マスコミは野田を実行力のある政治家という評価をしているようだ。風向きに敏感な橋下大阪市長まで、急に実行力があると野田を褒めはじめた。
 だが、これから、老人には、確実に、より厳しい時代がやってくる。高額の年金をもらっている人をのぞいて、年金だけで生活している人の大部分は、収入は増えず、支出は確実に増える。生活保護以下の年金しか収入のない老人は、切り詰める余裕もない。
 マスコミの小沢叩きは激しかったがそれらの老人のことを思えば、ぼくは小沢の論理の方を支持する。

 消費税増税の根拠は、医療費が確実に増え続けるという予測である。それゆえ福祉財源確保の必要があるとの論理はおかしい。右肩上がりの成長が続かないことは明白なのに、なぜ医療費だけが右肩上がりで増え続けるのか。医療費のどの部分が本当に必要なのかを、考えるときがきているのだ。意識のなくなった人間に胃瘻を作って生かし続けることによって、莫大な医療費が費やされる。これをどう考えるかだ。
 老人の中には、自分にはもう、延命措置はしてくれるな、と思っている人が多い。ぼくの周りの老人と話しても、大部分の人間は、おれには不要だという。積極的に安楽死を考えなくても、消極的な安楽死である、過剰な延命措置の拒否は是とする人が多い。この過剰な延命措置のために、どれだけの医療費が消えているか。
 こうした未来の医療のありかたを考えれば、医療費は右肩上がりの増加を続けることはない。もう一つ、クスリの値段は適正かどうかだ。ぼくは現在、前立腺がん治療のために、日に一錠の錠剤を投与され、毎月一回の注射を受けている。三割負担の代金が月に二万数千円だ。一ヶ月一回の通院だけで、五万円ほどのがん治療費が、健康保険に請求されていることになる。薬代がいかに大きいかが分かる。消費者が、この薬価の透明性を要求することはできないか。ぼくは、医療費増大の裏で薬会社がかなりの利益を上げていると見る。圧縮する余地は大いにある。医療費が増大するから増税だ、という論理には飛躍がありすぎるのだ。
 しかし、未来を考えたら、いつまでも財政赤字を増やすわけにはいかないという論理はどうだ。老人も国民全体も、未来につけを回すなという論理に弱い。少子高齢化を叫ばれると、自分が原因のように、罪を感じてしまう。そう考えるように、マスコミで洗脳されてきた。未来につけを回さないという論理には説得力がある。だが、アフガン復興の援助を約束するなどということの方が、未来につけを回すことではないのか。
 ついこの間のアフガンの復興援助のための約束は、どうしてもしなければならない約束か。復興が必要になったのは、アフガンに天災があったためか。アフガンを戦争で破壊したのはだれだ。アメリカだ。自己責任の原理からいえば、アメリカが復興費を負担すべきだ。それなのにアメリカにいい子ぶって、世界に寄付金の奉加帳回しの役割を買って出たのは野田内閣ではないか。そのためには筆頭の寄付額を約束せねばならない。だから日本が世界で二位の額を約束せねばならなかった。その金はどこから出てくるのだ。税金だ。
 ユーロ危機対策に膨大な基金への参加を約束する。どこから金が出る。税金だ。防衛費には戦闘機、イージス艦など、税金が湯水のごとく使われている。増税の前に、これらの支出を削減することが、つまりそれらの必要のない平和をを未来のためにつくることが、未来の世代につけを回さないことになるのではないか。
 日本はまだ、リーマンショックによってどれだけの金融資産を失ったかを総括していない。年金支払いが赤字になっているのは、年金の運用の上で大きな失敗があったからだ。本来は、年金の原資は日本の未来のために投資すべきだったのだ。それを、金融商品という紙切れに等しいものを買い込み、アメリカの資金運用銀行に国民の貯金を差し出して、ドル安でまんまと数割を取られてしまった。これはぼくの実感だが、資金運用だなどと大銀行の勧めにのって、外債を買い、資産を何割も減らした経験のあるものにはわかるだろう。
 消費税増税の論理は、こう考えていけば大きな欠陥がある。マスコミの野田政権支持の論理に騙されてはいけない。実感が大切だ。これ以上の増税に、老人の生活が耐えられるか、まずそこから出発せねばならない。まず増税ありき、の考え方は間違っている。小沢の論理の方が、今回は正しい。

40:打てば響く 2012年9月1日分 転載
ビートル 09/01 21:50
 なだいなだのサロン『打てば響く』2012年9月1日の記事を転載します。

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9月1日 緑の党ができた

 老人党の議論が国会の方に向きすぎているあいだに、重要な政治的事件が起こりました。緑の党の結成です。
 集まったのは、政治の手垢のついていない、新鮮なメンバーたちです。ということは生まれて初めて聞く名前の人が多いということです。しかし、欧米の環境政党「緑の党」と国際的に連帯をするそうですし、橋下大阪市長のようなスタンドプレーの好きな人達ではなさそうです。
 いま、メンバーたちは、反原発で首相官邸を取り巻いているグループに加わっている。実行力もある。
 ぼくは、鎌倉で環境運動をしてきたこともあり、緑の党を支持しよう、育てていこうと思います。
 環境問題は一国で解決できるものではない。日本の原子力事故の影響は、国境の内部にとどまらない。世界の環境を地球上の緑の党の同志と考えるようになれば、国境にある小さな島の領有権を争うなんて馬鹿なことは出来なくなります。
 緑の党的には、国際的に共同の自然として考えていく手段しかない。国境を超えなければいけないのです。彼らなら、平和的にそれが可能です。
 強硬派の議論なんて、子どもの議論と思えるようになります。
 元気のいい老人党は、これに加わったらどうでしょう。

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