打てば響く(『なだいなだのサロン』コラム) 転載

16:打てば響く 3月15日分 転載
ビートル 03/15 23:28
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3月15日 「汚れた手」(サルトルの芝居の題)

 小沢の問題についてのぼくの意見は、まず「まあ、慌てるな」だ。小沢を買いかぶってもいなければ、小沢に拒否感を抱いているわけでもない。かれも二世の議員だし、自民党の系列、しかも旧田中派の流れを汲む政治家だ。政権交代の役を担わせるにしても、それくらいの認識はある。

 今、西松建設からの献金問題で騒がれているが、慌てて辞任しないのは、これまでの民主党の代表と違って、小沢が「しぶとさ」を持っているということだ。その「しぶとさ」は、どこから来るか。「献金を受けたのは俺一人じゃない。金は必ず自民の政治家にも渡っている。トンネルグループを作っての迂回企業献金は、自民党の誰かも必ずやっている。待っていれば、かならず情報が出てくる」という確信だ。

 サルトルの「汚れた手」という芝居の中で、レジスタンスの英雄的な指導者を、裏切り者として暗殺の任務を負わされた若くて純粋な主人公に、「指導者のだれかが手を汚さなくては、組織は動かない」という宿命を、暗殺者に「おれのてはここまで汚れている」と手を差し出すところがあった。少し記憶があいまいで、自分なりに解釈しすぎているかもしれないが、小沢にこの意識があるかどうか。

 これまでの民主党の代表は、スキャンダルをささやかれると、すぐに辞任した。潔いように見えるが、早すぎた辞任だ。年金の未納問題のときも、民主の菅はすぐ辞任してしまったが、「おれみたいな金には清潔な人間でも、過ちをするのだから、ほかのものがやっていないはずがない。これは制度の欠陥だ」としぶとく頑張ればよかったのだ。その後の展開をみれば、かれの辞任の後、小沢にも、小泉にも未納の期間があることが、次々と発覚する。だが、小泉はへらへら笑いながら、辞任しなかった。菅は、自分の辞任が早すぎたことを悔いたのではないか。いざとなったら、小泉と差違えるつもりでいればよかったのだ。

 小沢は、その点で、政界の金の流れの不透明さをよく知っている。企業献金の規制をくぐる手の一つとして、OB会を通すことを考えたのは彼かもしれないが、同時に、この手を自民の政治家が使わないはずはない、と確信していたのだろう。ぼくは更に、西松建設以外の企業も、この手を使っているに違いないと思う。日本の優秀なジャーナリストが、嗅ぎまわってくれれば、いずれは他の企業のOB会なる存在が、明らかにされるだろう。アメリカの政界のロビー活動に当たるものを、企業に直接関係のなくなったOBにやらせるというわけだ。

 もう一つの問題は、何故この時期に、しかも小沢を狙ったかだ。これはぼくの勘だが、「日本には、第七艦隊だけで十分」という小沢の発言が引き金になったのだ。ぼくは第七艦隊も不要と考えるが、日本の官僚組織の中には、「アメリカ依存」というか、「ほとんど中毒」の人もいて、小沢を刺せ、という力を検察に働かせたのだろう。そんな面倒なことでもなく、検察の首脳の中に「アメリカ依存」がいたのかもしれない。ぼくの勘だから、外れているかもしれないが、あまりにもタイミングが合い過ぎているとぼくは思う。こういう仮説をもって、事件を追いかけるジャーナリストがいてもいいのにと思う。

 ともかく法廷に取調べ時の、ビデオの提出が認められるようになったのだから、小沢の秘書の取調べの状況はビデオに撮ってあるのだろう。取調べは、ぶっ通しで何時間行われているか、そうしたことを明らかにするように、ジャーナリストは要求するがいい。政治や汚職に関する取調べのビデオは、法廷で公開するべきだろう。

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