打てば響く(『なだいなだのサロン』コラム) 転載

39:打てば響く 2012年8月11・12日分 転載
ビートル 08/12 23:00
なだいなだのサロン、コラム『打てば響く』2012年8月11日と12日の記事を転載します。


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8月11日 外交というもの

 外交にしばしば加えられる非難、《弱腰》について考えよう。竹島に李韓国大統領が上陸したことに対する日本の反応は、強硬な抗議声明の形をとった。それだけでは不十分だと思ってか、韓国駐在大使を一時引き揚げるという。外交関係を中断することになる。
 だが、これでどんな結果が期待できよう。相手の謝罪を引き出すことができるか。出来るはずがない。しばらくすると、大使を戻す、何かの口実を探すことになるだろう。もっと強腰ということになると、この島を実力で奪い返すことだ。石原都知事だったらやりかねない。しかし、それは戦争の始まりだ。小さな島が戦争の火種になる。
 昔だったら、とっくに戦争が始まっていただろう。だが日本には平和憲法がある。初めから戦争の手段は取れない。すると、だから、日本は舐められている、と非難するものが出てくる。だが、舐められているという人間は、じゃあ喧嘩を売るのだろうか。国際間の喧嘩は戦争だ。戦争をしろというのか。そこまでやれとは言っていないなどと、意見を引っ込める。それよりいい手段はないのか。
 こういう時は、首相談話で、「強硬な態度を取れ、舐められるな、という人がいるが、その人には、《右の頬を打たれたら、左の頬をだしなさい》といったイエスの言葉を返すしかない。小さい島に過ぎなくとも、領土問題は、実に厄介な問題で、昔は戦争の原因になった。これが愚行だということを我々は知っている。こういう問題こそ、武力ではなくて、両国の政治家が叡智と善意を絞って平和的に解決するしかない。今こそ、強硬な姿勢より、叡智を示すことが必要だ」と相手の大統領に呼びかけたらどうだ。もちろん狙いは韓国の世論だ。韓国の強硬な世論に、少しでも変化を起こすことができたら、領土問題を棚上げにすることもできる。これは日韓のあいだに刺さった刺だ。棚上げにして永久に平和的な関係を結ぼう、という落としどころしかありえない。それが、現代の世界の常識だ。
 強硬姿勢で、国民を感情的に煽るのは、いわゆるポピュリストの政治家だ。叡智のない政治では、出口が見つけられない。


8月12日 消費税増税の法案成立に際しての感想

 誰のための、消費税増税か。
 野田政権は、結局は、増税のための保守大連合を実現した。マスコミは野田を実行力のある政治家という評価をしているようだ。風向きに敏感な橋下大阪市長まで、急に実行力があると野田を褒めはじめた。
 だが、これから、老人には、確実に、より厳しい時代がやってくる。高額の年金をもらっている人をのぞいて、年金だけで生活している人の大部分は、収入は増えず、支出は確実に増える。生活保護以下の年金しか収入のない老人は、切り詰める余裕もない。
 マスコミの小沢叩きは激しかったがそれらの老人のことを思えば、ぼくは小沢の論理の方を支持する。

 消費税増税の根拠は、医療費が確実に増え続けるという予測である。それゆえ福祉財源確保の必要があるとの論理はおかしい。右肩上がりの成長が続かないことは明白なのに、なぜ医療費だけが右肩上がりで増え続けるのか。医療費のどの部分が本当に必要なのかを、考えるときがきているのだ。意識のなくなった人間に胃瘻を作って生かし続けることによって、莫大な医療費が費やされる。これをどう考えるかだ。
 老人の中には、自分にはもう、延命措置はしてくれるな、と思っている人が多い。ぼくの周りの老人と話しても、大部分の人間は、おれには不要だという。積極的に安楽死を考えなくても、消極的な安楽死である、過剰な延命措置の拒否は是とする人が多い。この過剰な延命措置のために、どれだけの医療費が消えているか。
 こうした未来の医療のありかたを考えれば、医療費は右肩上がりの増加を続けることはない。もう一つ、クスリの値段は適正かどうかだ。ぼくは現在、前立腺がん治療のために、日に一錠の錠剤を投与され、毎月一回の注射を受けている。三割負担の代金が月に二万数千円だ。一ヶ月一回の通院だけで、五万円ほどのがん治療費が、健康保険に請求されていることになる。薬代がいかに大きいかが分かる。消費者が、この薬価の透明性を要求することはできないか。ぼくは、医療費増大の裏で薬会社がかなりの利益を上げていると見る。圧縮する余地は大いにある。医療費が増大するから増税だ、という論理には飛躍がありすぎるのだ。
 しかし、未来を考えたら、いつまでも財政赤字を増やすわけにはいかないという論理はどうだ。老人も国民全体も、未来につけを回すなという論理に弱い。少子高齢化を叫ばれると、自分が原因のように、罪を感じてしまう。そう考えるように、マスコミで洗脳されてきた。未来につけを回さないという論理には説得力がある。だが、アフガン復興の援助を約束するなどということの方が、未来につけを回すことではないのか。
 ついこの間のアフガンの復興援助のための約束は、どうしてもしなければならない約束か。復興が必要になったのは、アフガンに天災があったためか。アフガンを戦争で破壊したのはだれだ。アメリカだ。自己責任の原理からいえば、アメリカが復興費を負担すべきだ。それなのにアメリカにいい子ぶって、世界に寄付金の奉加帳回しの役割を買って出たのは野田内閣ではないか。そのためには筆頭の寄付額を約束せねばならない。だから日本が世界で二位の額を約束せねばならなかった。その金はどこから出てくるのだ。税金だ。
 ユーロ危機対策に膨大な基金への参加を約束する。どこから金が出る。税金だ。防衛費には戦闘機、イージス艦など、税金が湯水のごとく使われている。増税の前に、これらの支出を削減することが、つまりそれらの必要のない平和をを未来のためにつくることが、未来の世代につけを回さないことになるのではないか。
 日本はまだ、リーマンショックによってどれだけの金融資産を失ったかを総括していない。年金支払いが赤字になっているのは、年金の運用の上で大きな失敗があったからだ。本来は、年金の原資は日本の未来のために投資すべきだったのだ。それを、金融商品という紙切れに等しいものを買い込み、アメリカの資金運用銀行に国民の貯金を差し出して、ドル安でまんまと数割を取られてしまった。これはぼくの実感だが、資金運用だなどと大銀行の勧めにのって、外債を買い、資産を何割も減らした経験のあるものにはわかるだろう。
 消費税増税の論理は、こう考えていけば大きな欠陥がある。マスコミの野田政権支持の論理に騙されてはいけない。実感が大切だ。これ以上の増税に、老人の生活が耐えられるか、まずそこから出発せねばならない。まず増税ありき、の考え方は間違っている。小沢の論理の方が、今回は正しい。

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