打てば響く(『なだいなだのサロン』コラム) 転載

37:打てば響く 2012年6月6日分 転載
ビートル 06/07 20:48
 なだいなだのサロンのコラム『打てば響く』2012年6月6日分の転載です。

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6月6日 オランド新フランス大統領就任の感想

 フランスの大統領選挙は、オランドの当選で終わった。
 オランドってだれ?フランスの社会党には、ユダヤ系のフランス人が多い。DSKことドミニク・ストロス・カーンがそうだ。元蔵相、IMF前専務理事で、有力大統領候補と目されていたが、セックススキャンダルで辞職した。それが間接的にオランド大統領に繋がった。DSKがコケたから、オランドが急浮上したのだ。外務大臣に就任したファビウス元首相もユダヤ系。保守のサルコジ前大統領もそうだった。サルコジと同じ党で、現幹事長のフランソワ・コぺもユダヤ系。ルーマニアからの移民でもある。サルコジはハンガリーからの移民である。今回は、ユダヤ系とユダヤ系の候補者の決選投票ということになったわけだ。新しい移民のユダヤ系と、フランスに何世代も前から住み着いているユダヤ系との戦いだ。DSKが候補だったとしても、ユダヤ系同士の対決ということになっていた。次の大統領選挙で自分の出番を狙っているコぺが、オランドに挑戦すれば、またユダヤ系対決になる。
 政治家以外にもフランスにはユダヤ人が多い。哲学者にも作家にも、ユダヤ人は多い。ベルナール・アンリ・レヴィーもそうだし、レヴィー・ストロースもそうだ。レヴィー・ストロースとベルナール・アンリ・レヴィーを並べたくないが。こうして、だれがユダヤ人というかユダヤ系というか、名を挙げているうちに、ユダヤ人があまりに多くて、ユダヤ人ということは、人ということに変わらないことに気がついた。
 人にいろいろあるように、ユダヤ人にもいろいろあるのだ。ともかく、今回のフランス大統領選挙はユダヤ人とユダヤ人との争いだっということになる。だが、この二人には仲間意識はないらしい。当選してからの引き継ぎも、実にそっけなかった。
 オランドという名前は、パリに亡命していたハインリッヒハイネ(かれもユダヤ人だ)の書いたものの中に出てくる。当時の銀行家で、資産家で、同時にアナーキストのサポーターだったということだ。ま、パリではマルクスがその後活躍するようになる時代だ。ぼくはオランドはこの銀行家の直接の子孫かと思ったが、遠い祖先にそういう人がいた、という程度の関係はあるかもしれない。はっきりしているのは、直接のかれの父親は耳鼻咽喉科の医者で、母親はソーシャルワーカーだということだ。
 かれは、どこか頼りない感じで、それゆえ、第一書記のポスト在任期間はミッテラン元大統領を抜いて、結党以来最長だったが、かれはその間、大統領候補としては二番手どころか、三番手、四番手だった。前回はかれの事実婚のパートナーでかれとの間に4人の子供のいるセゴレーヌ・ロワイヤルが大統領候補に推された。ロワイヤルがサルコジとの決選投票で落選したあと、二人は事実婚関係を解消した。オランドはセゴレーヌ・ロワイヤルを積極的に支援しな
かったが、今回、別れたあとだったが、セゴレーヌ・ロワイヤルは、積極的にかれを支援して、キャンペーン活動をした。しかし、早々に閣僚には入らないと表明した。

 オランドは、当選したあと、直ぐに大統領の給与と、大臣の給与を30%カットし、閣僚の半数は女性から選ぶという原則を決め、それを貫いた。給与カットするのは、予算もいらないから簡単にすぐに出来る。閣僚の半数を女性にするというのも、予算措置は不要だから、簡単にできる。党内のアンティ・フェミニストを黙らせるだけでいい。女性から要求されぬうちにやったのは、二重丸を上げてもいいだろう。
 かれが、財政締め付けよりも、経済成長を主張し、大統領就任直後のメルケルドイツ首相との会談でも妥協しなかったために、ユーロは売られ、記録的下値をつけたが、決して慌てなかったことには、丸をあげてもいい。いわゆる投機マネーの脅しに屈しない姿勢を見せたことで、しばらくは投機マネーも派手な動きは出来まい。そして投機マネーが短期に移動しないように、税をかけることに成功すれば、三重丸ぐらいやってもいいだろう。しかしこれは、そう簡単にはできまい。まず、下院議員選挙で勝つことが必要だ。その投票がまもなくある。
 フランス議会選挙の結果がどうなるか、大統領選挙以上に重要かもしれない。
 ま、日本の政治家と、比べてみるのもいいだろう。ぼくは決してオランドに期待はしていない。オランドを勝たせた、格差と失業を増大させてきたヨーロッパの状況こそが、圧力となって、かれを動かす力だからだ。主役はかれを選んだ国民だ。

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