打てば響く(『なだいなだのサロン』コラム) 転載

46:打てば響く 2012年11月17日分 転載
ビートル 11/17 13:01
 なだいなだのサロン『打てば響く』2012年11月17日の記事を転載します。

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11月17日

「窮鼠猫を噛む解散」と見えて、実は「あとは野となれ山となれ解散」

 とうとう年内解散ということになった。
 今回は、どこに投票するか、選挙民は迷うだろう。ぼくだって迷う。単独の党が過半数を占めることはないだろう。
 記録的な低投票率になる可能性もある。その正反対もありうる。自公政権の復活の可能性は高いが、もう、それにはうんざり、という有権者も多いから、前回の民主党のように、自民が大勝ちすることはないと思う。

 さて、野田という政治家だが、おそらく「政治家になる以上は総理大臣をやってみたい」と思って生きてきた人なのであろう。松下政経塾に入ったのも、民主党に入ったのも、自民党に入るより、近道という計算があったのだろう。そして首相になった。だが、この人には、首相になって、何をしたいのか、そのイメージがなかった。政治家になってからは、ひたすら政治技術を学んだ。今回のような敵も味方も虚を突かれるような解散をしたのは、そのような技術を学んできた結果だろう。かつては、こういう技術は、政界の寝業師と呼ばれた人たちに属していた。その技術を、かれはプロ並みに磨いた。
 だが、解散のあとを、かれは考えていないだろう。民主党はこんな解散をすれば、消滅するだろう。選挙後にいくつかに分解し、小沢のもとに走るもの、自民に走るもの、維新に走るもの、いろいろと出てくるだろう。しかし、かれにとっては、総理になるまでは必要な存在であったが、民主党はもう必要はない。かれは政治生命を賭けるといっていたが、実は、総理大臣になってしまったのだから、これからの政治生命など、問題にならなかったのだ。だから民主党の生命も賭けたのだろう。
 だろうと、推定しているように書いているが、ぼくの頭の中では、ほとんど確信に近い。
 政治家を職業としてやる人間が増えてくれば、かれのような首相が選ばれても、当然だ。
 だが、日本人にとっては、不幸なことだ。

 こんどの選挙では、どこに投票したらいいか、大いに迷うだろう。それについては、この次に書こう。
 が、群雄割拠して、政権の空白状態が起きるかもしれないが、今のような政府なら、政府などない方がいいかもしれない。ベルギーなど、541日間、選挙後に内閣を作ることができなかった記録もある。しかし、ベルギーの経済は、ごく普通に機能していた。日本に、たくさんのベルギーのチョコレート屋が店を開いているし、スーパーでもベルギーの絨毯は、よく売れている。高級スーパーではベルギー輸入の、ビスケットが売れている。フランス製よりよく売れている。政府はダメでも、商売の方は、けっこう頑張っているのだ。
 541日の政治空白は、さすがにギネスブックに載せられるほどの記録であったが、政府なんて、意外と不必要であることの証明にもなった。その間、選挙で負けた前の内閣が、541日も延々と代行を続けてしまったのだ。政治空白、さあ、大変、などとあわてふためかないこと。

 今回の解散で示した、野田という政治家、昔の「政界の寝業師」という修飾語を思い出してしまった。追い詰められたかれには、それが唯一の選択肢だったのかもしれないが、党首討論の形で、解散の言葉を飛び出させたのは、演出の上手さと認めてもよかろう。
 かつてのバカヤロー解散などというものを、経験しているぼくたちにとっては、さして、驚きもしなかった。「おやおや、政治のプロだとか、政界の寝業師などという修飾語を付けて呼ばれる政治家が、まだ残っておったわい」
 今回の解散、後世のために名をつけるとすれば「窮鼠猫を噛む解散」というところだろうか。
 ともかく、かれ自身にとっては最良と思われる選択だったろう。ちょっぴり野党を慌てさせたし、石原や、橋下たちも、慌てさせたし、民主党の傷口が、これ以上大きく開かないようにブレーキをかけた。あと一日遅れれば、党内の反対派に首相の座を降りるように迫られただろう。
 だが、寝業師の政治家をもったことを、国民が誇りに思えるだろうか。国民はいうだろう。寝業師なんていらない。
 欲しいのは、哲学をもった政治家だ。

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