打てば響く 
過去記事(2005年1月〜6月)

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6月21日

 フランスから戻り、風邪で臥せっていました。
 日韓首脳会談に関するぼくの考えを述べます。靖国以外の慰霊施設に日本は 消極的ですが、国内からの要求がないことを理由にしています。
 では国内から、声を上げましょう。靖国以外の慰霊施設が必要だと。
 靖国問題は国内問題なのです。

 まず戦死者と戦没者の意味の違い。

 広辞苑の編集者に質問したい。
 戦没者をという見出しはなく、戦没とひくと、戦場で死ぬこと、戦死、戦傷死、戦 病死の総称と書いてある。結局のところ、これでは、戦争で死んだ軍人だけが、 戦没者。小泉首相が戦没者というときはこの意味だったらしい。
 この意味だとすると、天皇の参列する例年8月15日に武道館で行われてきた、 戦没者慰霊祭は戦争で死んだ軍人だけを慰霊してきたことになる。つまりは靖国 に行って慰霊するのと同じようなことをやってきたことになる。

 しかし、現代の日本語を使っている人たちに、アンケートをとってみて欲しいが、 「戦没者」は、戦争で死んだ人、軍人も入るかもしれないが、空襲で死んだ民間 人、原爆で死んだ民間人、沖縄の地上戦で死んだ、民間人も、戦没者だと思って いる人が、どれくらいいるか。ぼくが講演会などで手をあげてもらったところでも、 そう考えている人が多い。その人たちは、8月15日の慰霊は、その意味での戦 没者のためだったのだと思う。ぼくは、さらに日本が戦争で殺した外国の犠牲者 まで含めて戦没者と考え慰霊してきた。
 この慰霊の対象の差があったから、天皇も、靖国へ参拝することをせず、武道 館の慰霊祭だけに参加してきたのだと思う。
 だが、ここでの慰霊も、戦死者戦傷死者戦病死者、つまり軍人の死者だけに対 するものであり、空襲の死者、原爆の死者も沖縄戦の民間死者を含まないもの だったとなると、いったい今まで、この慰霊祭でなにをしてきたのだろう。そのこと を考えもせず、戦後六〇年を送ってしまったのは、ちょっと、うかつだったと思わ ざるを得ない。
 今こそ、そのことをハッキリさせよう。
 そして、天皇が靖国参拝を、慎重に避けてこられたのに、首相がなぜその慎重 さを持たないのか、質問しよう。
 今こそ、天皇も堂々と参拝できる、靖国とは別の新慰霊碑を建てよう。
 8月15日の戦没者の範囲を、戦争の犠牲になったあらゆる人に拡大し、それ を慰霊すると同時に、そのための塔でも建てればよいと思う。その声を老人党 は、率先して上げようではないか。声が上がらないから、やらないとはいわせな い。
 天皇も首相も、ともに、ここに慰霊に訪れることにすれば、外国から文句をつけ られることはない。
 靖国は、かつては天皇の私的な神社であった。戦争で、天皇家から切り離され ると、遺族会にハイジャックされた形になっている。
 そして、独立した慰霊碑が造られないで来たのは、靖国と遺族会が反対してき たからである。
 戦没者は、巷では、戦争での全死者の意味で使われている。広辞苑はこの項 目を早く改訂すべきではないだろうか。変な新語を採録するより、こちらの改訂の 方が急務だとぼくは思う。



5月21日

おわび。
 あっという間に5月21日、明日は、フランスに出かけるという日になってしまいま した。その間、連載の前渡しのためと、パリでの講演原稿(いつもは原稿なしで話 をするのだが、通訳つきなので、通訳にあらかじめ原稿を渡さねばならない。)な ど、仕事が山のようにあったうえに、それに家内の入院、手術の付き添い、それ から家内の母親の急死(享年100歳)などもあって、暇がなく、コラムを更新でき なかったことをお詫びします。

 その間も、世の中は動き、風雲急を告げているのに、じっと沈黙を守っているの は、本意ではありませんでした。
 JR西日本の事故は、民営化の何たるかを示してくれたとぼくは考えます。郵政 民営化を考える上で、参考になるでしょう。事故の直前まで、JR西日本の利益は 上がっていて、役員はその功績を理由に、特別ボーナスを自分たちで受け取ろう としていました(事故で返上が決まりましたが)。事故後新型ATSの導入を緊急で やるのですから、それを遅らせて、利益を搾り出していたことが自明です。あわて て、新ATSを取り入れることで、その儲けの実態が、わかってしまいました。利益 は、その他、どうやってあげたのでしょう。職員を締め上げることによってです。ダ イヤの遅れが出ると、罰金。再教育。ボーナスのカット。それで儲けを増やして、 株の配当を出そうとする。「資本のために、儲けることがすべてなのです。それ が、民営化というものです。

 郵政民営化も同じです。そして民営化すると、おかしな役員が送り込まれるので す。NTTの役員にも、え、どうしてこんな人が、と思うような人が入っていますが、 JR西日本も、鉄道のことは何も知らない、ただ労務管理で辣腕を振るった人が 入っていたのではないか。だから.、再教育で、合理的に失敗の原因を見つけ、そ れを指導するという形にはならす、すぐ便所掃除をやらせるなどと、いういやがら せ的な、処罰の色彩の濃いことをやらせるのです。過去の合理化闘争で、こうし たプライドを傷つけられる再教育なるもので、こころの病気になった人を何人も治 療したことを思い出しますが、日本の職場には、昔の軍隊の内務班を思わせる、 嫌がらせの伝統のようなものが、あまりに多すぎるというのがぼくの印象です。
 切手を貼れば、全国、どんな山奥の家にでも郵便を届けてくれる、こういうサー ビスは、恐らく、儲けが主体になると、切り捨てられるでしょう。利益を圧迫する事 業だからです。
 郵政民営化の問題をこれから取り上げていきましょう。



4月13日

  「憲法なんて知らないよ」池澤夏樹著の集英社文庫版が4月20日から発売に なります。これは英語版の新憲法を日本語に訳すという形を取って、自由に易し い文章で憲法を書きなおしたもので、ぼくは憲法全文をこれで初めて読みました (恥ずかしながら)。憲法を通して読んだ人は、意外と少ないのではないかな。9 条だけは知っている、しかし通して読んだことのない人はけっこういるのではない かと思うけど、是非、この機会に読んでください。これを読むと、難しい言葉の多 い日本語の憲法まで、読み直してみる気持ちがわいてきます。



4月11日 「掲示板の混乱」のお詫び、とお願い。

 どの掲示板も混乱しているようです。混乱の原因は、すべて管理責任者のぼく にあります。ぼくがあまり管理にエネルギーを使えないので、申し出られた、何人 かのボランティアの方にお願いしてあるのですが、管理に対する不満は、全部ぼ くにぶつけてください。

 ただ、お願いがあります。というよりは、知恵としてお聞きください。カッカしたくな ければ、投稿者の間でやり取りしないこと。掲示板では、言いっぱなしのつもり で、自分の意見を述べるだけで、誰かの発言に対して、反応しないことです。ほか の掲示板の経験者に意見を聞きましたが、掲示板で論争を始めると、お互いの 顔が見えないため、インターネット上の論争は、どうしても汚い言葉の投げあいに なってしまうそうです。これは一般的傾向のようです。どこのサイトでも同じというこ とでした。掲示板は、書きっぱなし、いいっぱなしで、反論しないのが、知恵のよう です。中にはしつこく個人攻撃をする人もありますが、それには無視が一番です。 ぼくなど、そうしていないと血圧が上がってぶっ倒れることになるので、インターネ ット上では、無視は許されることと思っています。まだ、ぶっ倒れたくないし、(ぶっ 倒れてもいいほど価値のある論争なら別ですが、そんなものはほとんどない)許し てもらいます。皆さんも真似てください。ネット社会で、経験から学ぶとそういうこと になります。本当に論争するなら、メールのやり取りをするのがいいでしょう。

 ぼくに、不満、抗議のメールを送ってくる人にも、お願いがあります。用件の欄 に、馬鹿、阿呆など、書き連ねないでください。すぐにゴミ箱行きです。読む気にな りません。もちろん本文の冒頭にも書かないこと。おしまいまで書かないのが一番 よろしいが、どうしても書きたかったら、最後に書いてください。それなら、そこまで は読みますから。

「迷惑メールについて」
 オレオレ詐欺にひっかかるのはどういう人なのだろう、と不思議に思っていまし たが、ポルノメールの届き方を見ていると、高校生あたりに、こういうメールが、繰 り返し届いているとなると、0.5パーセント、返事してしまうものがいるとしても、かな りの被害者が全国に出ていても、不思議でないような気がしてきました。次々にく るメールは、受信拒否をし続けていますが、ぼくのところに、(間違って?)新しい メールアドレスを買わないか、というメールが届きました。500万ほどのアドレス を所有している、安く譲る、ということでした。オレオレ詐欺の振込み先口座の売 り買いがあることはきいていましたが、アドレスの売買もあることが分かりました。 これで、明らかに同じ発信元からのメールが、受信拒否しても、次々と届く、からく りが見えました。メールの文章もマニュアルに従って、アルバイトが送り続けてい るようです。迷惑メールが受信拒否で対応できない理由が分かってきました。こう いうアドレスが、犯罪に使われたら、アドレスを売ったものも罰するようにしなけれ ば、ネット社会の犯罪はなくならないと感じました。初めから売買禁止にすればも っとよろしい。
 これは法律で対応してもらわねばならないことだと思います。

 4月10日、「9条の会」の集会に出て、鶴見俊輔、小田実、澤地久枝さんに会っ て来ました。これについて、書くのはまたの機会にします。



3月16日  「経済制裁という手段」

 日本の政治家が、北朝鮮への経済制裁を主張している間に、日本が、アメリカ から経済制裁を受けそうな気配になってきた。どちらが先か、ロンドンでは賭けが 始まっているというが本当であろうか。

 アメリカは、日本が北朝鮮に対してとっているそれと、そっくりの態度で、日本に 対している。経済制裁をちらつかせ、圧力と対話で、日本に牛肉の輸入を迫る。 それが日本に、どんな感情的反応を起こしているか、世論調査で70パーセント の日本人が、牛肉の輸入再開は、急ぐことはない。安全性を十分に確かめて、と 考えている。経済制裁などというから、日本の世論は硬化したのだ。

 北朝鮮への経済制裁を行うにしても、韓国の協力がなければ、実効はない。だ が、拉致問題で、韓国の世論は、はじめは日本に同情的だったが、日本の二世 三世の政治家が、北への経済制裁をいいだしてから、急に変わり始めた。かれら にとっては、いかに北朝鮮が拉致問題で、あるいは核問題で、世界から非難され ようと、それでも同胞という意識がある。拉致家族には同情し、北朝鮮の行為は、 なんら弁護できないとしながらも、日本はその何十倍もの悪を、戦争中に行って きて、償いもしていないことを忘れてはならないと、ノムヒヨン大統領さえ演説す る。そこに韓国の国民感情が現れている。今回の竹島領有問題のこじれは、日 韓関係を悪化させているが、声高な経済制裁発動を求める日本の世論と、無関 係ではない。

 アメリカもパウエルが、北朝鮮に対する一国だけで行う経済制裁は、効果はあ まりみこまれない、と暗に、アメリカは日本の経済制裁案に同調しないことを意思 表明した。アメリカも、日本が戦時下に行ったことは、それが開戦の口実であった ので、このような距離をとった態度をとらざるをえない。安倍幹事長代行のような 民族主義者は、そういう現実を見ることができず、外交を出口の見えないこう着 状態に、陥れている。それは決して拉致被害者の家族のためにもならない。これ では、問題の解決からとおざかるばかりだ。

 掲示板の現状にひとこと。老人党の掲示板も含めてのことである。口汚い罵り あいは、掲示板という自由発言の広場を、自ら破壊していく行為だ。もう少しマナ ーを考えて欲しい。マナーなどという言葉を口にすることもなく、75年間生きてき た人間にはいうのは辛い。だがいう。掲示板というのは広場だが、開放された他 人の庭のようなものだ。ぼくは禁止という言葉が嫌いで、68年5月革命のときに、 学生が「落書き禁止」の張り紙のそばに「禁止することを禁止する」と書いたとき に、拍手した人間だから、禁止という言葉は使わない。しかし、お願いはする。掲 示板を口汚い罵りあいの場にしないで欲しい。



2月12日

 近況を報告まで。
 ちくまから「専門馬鹿と馬鹿専門」と題して、「婦人乃友」に連載中の教育に関し たものを集め、ちくまから出版します。4月ごろの予定。まえがきは「馬鹿の勧め」 利巧にはなろうと思ってもなれないが、だれでも馬鹿にはなれる。馬鹿とはすべて の人間の原点のこと。馬鹿になって、素直に疑問に思うことを質問しよう。そう勧 めています。

 池澤夏樹の「憲法なんて知らない」の文庫版も四月に出る予定です。

 最近、困っていること。いわゆる「出会い系」と称される、もぐり売春のメール が、一日に入るメールの三分の二を超えます。こういうメールが、小学生、中学 生、高校生、のアドレスにも送られれているのでしょう。逆援助で30万あげるなど という、うまい話にのって、子どもたちが、わなに嵌るのが想像できます。受信拒 否のアドレスに、拒否通知を送れば、それが逆効果、十倍になって返ってきま す。受信拒否にしても、次々とアドレスを変えて、新アドレスで送ってきます。イン ターネット社会には、こうしたメールの問題があることを実感しています。おそらく 暴力団がからんでいるのだろうと思いますが、暴力団が代紋を堂々と掲げて活動 していても、警察は放置したままの国ですから、インターネットは、こうしたメール にのっとられてしまっても不思議ではありませんが、鬱陶しい限りです。
 プロバイダーに監視義務、あるいは管理義務があることにすべきか、考え込ん でしまいます。こんな出会い系サイトが、増えるのは、ビジネスとして成り立つから で、それは、被害者があちこちで悩んでいるということでもあります。ジャーナリス トのだれか、調査をしてくれないだろうか。こういうことこそジャーナリストの仕事だ と思うのだが。



1月17日

 13日に帰国しました。
 長い留守の間、更新ができず、ご迷惑をかけました。その間に東南アジアで史 上稀な大津波が起き、十万人以上の死亡者をだす災害がどういうものか、テレビ カメラを通じて,初めて見せ付けられました。これまで戦争で何万人が死んだ、とい う報告や記述を見ても、それは数字だけで、現実の生々しさ、悲惨さ、を想像する ことができませんでした。しかし。今回の報道を通じて、あらためて原爆という人 間の作り出す災害の残酷さ、東京大空襲の被害のすさまじさが、実感されまし た。
 そして、大災害は防ぐことは難しいが、戦争という人災は防ぐことは可能だし、 防がねばならぬと、不戦の誓いを新たにしました。

 この旅行の間に、池澤夏樹の「憲法なんて知らないよ」の文庫版の解説を頼ま れて書きましたが、この本はなかなかいい。とても憲法がわかりやすく書かれてい ます。小生の解説も、久しぶりに、満足できるできばえでした。
 これは憲法の英文版(正式なもの)を翻訳したものです。こうすれば、柔らかい 文章に訳すか、硬めに訳すか、訳者のお好みどうり。日本文の憲法を分かりやす く書き換えるのとは違って、物議をかもすことなく、かなり踏み込んだ形で、自分 の文体で訳文を統一することができます。うまいことを考えたものです。これなら、 簡単に憲法全文を読むことができます。
 読んでみると、9条の意味もよく分かるし、9条の精神の実現のためには、かえ って改憲しておくべきだったと思われるところもある。最高裁判事の任免に関する 部分などがそれです。しかし、池澤がいうようにだれもが「やっぱりかなりいい憲 法だ」と肯くことができると思います。集英社文庫で、この本が出たら、必読です。

 ヨーロッパではブルノ・ガンス主演のヒトラーの最後を描いた映画が話題をさら っていました。ヒトラーを悪魔のように描いていないから、この映画は有害だという 上演反対の動きがあったことに、疑問を感じました。普通の人間として描いては なぜいけないのだろう。普通の人間がヒトラーに変われるからこそ問題なのでは ないか。
 日本でも早く上演されることを願ってやみません。