打てば響く
(過去記事2011年)

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12月31日 感想です。

 遠く離れてヨーロッパに来てみると、見えないものが見えてくることがありま
す。
 今日、新聞では1ユーロが100円だと騒いでいました。ぼくが固定相場に戻
すべき好機とかつて書いたことがある瞬間です。
 日本では、円安の方が「輸出しやすい、国際競争の点で有利になる」という議
論が主流になりますが、こちらでは、輸入品の価額が高くなって、インフレにな
るという心配の議論が主流です。日本は輸出産業の目でもの見ていて、こちら
では消費者の目でものを見ているということでしょうか。
 ユーロ安で、国際競争力が高まり、輸出しやすくなるのだから、経済に活気
が出てくるのではないか、失業が減るのではないか、と言ってみたら、生産拠
点を国外に移しているので、ユーロ安になって、フランスブランドの、輸出が増
えても、フランスの失業は減らないということです。これではユーロ安を歓迎す
る人が少なくても当然です。しかし、これが、日本の明日の姿かもしれません。
 フランスの失業者は増え続けています。大統領選ではそこが問題になること
必至の状況です。そろそろジャック・ジェネルーという人の本が売れてくるので
はないかと思います。この人は、大学の経済学の教授ですが、ぼくなどにも、
現代の経済の抱える矛盾を分かりやすく教え、われわれにもできそうな対策
を、研究模索している人です。この人の本が読まれるというのは、ぼくにはよい
傾向に思われます。

 今年の世界は、どうやら混乱のままに暮れていきそうです。
 闇市焼け跡派は、今こそ元気を出させるべく、行動していきましょう。

 パリから
 なだいなだです


12月20日

 フランスからです。
 個人的問題。病気の治療の方は順調のようです。マーカーの価は低くなりま
した。飲んでいる薬、女性ホルモンですが、副作用は全くありません。おっぱい
も大きくならなければ、肌もすべすべにならない。食欲も衰えない。副作用を欲
張ってみても、あまり意味がないか。
 ともかく、現在のところ、至極元気であり、ご心配には及びません。

 フランスまでの旅は、少し贅沢して、プレミアムというツーリストと、ビジネスの
クラスの中間のクラスを利用しましたが、八十歳を越してからは、この席でも、
かなり苦痛になってきました。ま、何とか14時間の飛行を乗り切りましたが、正
直、余裕はあまり残っていませんでした。あと何回、このような旅ができるか
な、という消極的な考えが、頭に浮かびました。

 パリに着いて数日して、金正日の死を知りました。テレビに映し出される、号
泣する何人もの北朝鮮の人の姿は、ちょっと異常という印象を受けましたが、
日本でも明治天皇が死んだときに、宮城前にいって号泣する人がたくさんいた
し、乃木大将夫妻のように殉死などする人もいたのです。北朝鮮を考えるとき、
社会的に、100年くらい遅れているという状況を想像するか、日本も百年前は
そうだったと思い出すか、ともかく頭を切り替える必要があります。
 後継者が三男に決まったようですが、若くて頼りなげな印象をテレビから受け
ましたが、これからの難しい状況を、背負っていけるのでしょうか、ちょっと疑問
に感じます。

 さて、日本ですが、わがドジョウ首相は、ほとんど自民党と変わりないことが
分かってきました。人気急落も当然でしょう。
 問題は橋下新大阪市長です。侮れない人気ですが、年金の考え方などを知
ると、この人には、「相互扶助」の考え方が、完全に欠けていると思います。年
金は積み立て貯金ではない。高給をもらっている人は、貯金をする余裕もある
はず、支給の上限を設けるべきです。そうでなければ、行き詰まるでしょう。年
金で世界一周の船旅などする必要はなく、老後のために貯めてきた貯金で旅
行に行けばいいのです。
 相互扶助の考えがなければ、この国の住民としての一体感など生まれようが
ありません。大震災ばかりでなく、日常のあらゆる場面で、助け合いの精神が
見られねばなりません。
 いかに橋下氏に人気が集まろうと、今のままでは、どちらかといえば金持ちク
ラスの間の人気にとどまるような気がします。かれはもう少し政治哲学を語る
必要があります。

 話は変わります。80以上のぼくは、よく戦後の焼け野原と、東北の津波の後
の、光景との相似を問われますが、よく似ています。ただ、決定的に違うこと
は、焼け跡に、勝手にバラックを建てて住む人がいたのに対し、津波の後にま
だ、闇市も立たないことです。この違いが戦後の復興のエネルギーと、大震災
後のエネルギーの違いのように思えます。闇市を仕切っていたのは、アウトロ
ーの雰囲気でした。みな、親分たちでした。戦後の闇市のドキュメントをやらな
いかな。
 実際、土地の親分が多かった。しかし、この人たちは戦後の社会に次第に組
み込まれ、親分たちは都会議員になったり、なかには都会議長になった人もい
ました。ぼくたちは闇市焼け跡派などと呼ばれることがありましたが、闇市のエ
ネルギーに郷愁を覚える人間です。
 今は闇のエネルギーはどこかに行き見えません。税金待ちばかりです。これ
では当然エネルギー不足になるでしょう。
 
 そんなことを考えています。


7月16日 感想 どっちがいいのだろう。

 前回の感想は、在仏中に書いた。その中でも「菅下ろし」に言及した。そし
て、菅下ろし騒動はまだ終わらない。長く続いている。よく頑張っているね、と思
う。呆れていっているのではない。むしろ褒めているのだ。
 NHKの世論調査で、内閣支持率は最低だという。この時期の内閣支持率の
発表は、はなはだ政治的な気がする。支持率最低になったら、総理をやめなけ
ればならない、などという決まりは法律にはない。また、そんな習慣ができた
ら、たかだか2000名くらいのサンプリングで纏める世論調査が、政治を押し
流してしまうことになる。
 政権が選挙で変わるのは当然だが、世論調査などでいちいち変わってもらっ
ては困る。これまで鳩山、福田、安倍と簡単に政権を投げ出す首相が続出した
が、その時に、無責任だといっていた世論が、簡単に投げ出さない菅をののし
るのは、どう考えてもおかしい。
 菅はバカだと、前にいったが、今でもそう思う。だが、かれの周りで、かれに
影響を与えている人間は、バカではない。おそらくかれらが菅に頑張らせてい
るのだろう。これだけ叩かれながら頑張るのは、辛いだろうが、それがお前の
つとめだ、とでもいっているのだろうか。それとも、菅が、そのことだけは分かっ
ているのだろうか。
 はっきりしていることは、次の選挙では、民主党は必ず二つに割れているとい
うことだ。なにしろ、閣内で、菅と全く正反対なことをいうばかりか、与党議員の
中でも、平気でかれを支持しないと言い放つ若い議員(断っておくが、かれは菅
と同じくらいバカか、それ以上にバカだ)がいるくらいだから、選挙を前にして、
纏まっていられるはずがない。
 おそらく、自民党も割れているのではないか。いわゆる政界再編成だ。それ
も大再編だ。公明は政治的にではなく宗教的に纏まっているので、割れないと
思うが、どちらに着くべきかで戸惑うだろう。
 さて、その再編だが、おそらく日本の政治家は原発廃止派と、存続派に再編
成される。GNP拡大主義とそれを再考する主張の派もそのどちらかを選択す
る。
 ところどころで、菅はぽろっと漏らしてしまうが、本当はしまっておいて、かれ
のブレーンに論文を書かせればいい。戦術としてはその方がいい。それを文春
が載せるかどうかは分からないが、数ある月刊誌の中には載せるところもあろ
う。
 ともかく、直ぐに放り出した総理と、放り出さないで、しがみついていると非難
されるのと、どちらがいいだろう。ぼくは政権には、しがみついているべきだと
思う。それがせいじというものだ。
 前にもいったと思うが、今、カルロ・デステ著「チャーチル」を読んでいる。それ
を通して、近代のイギリスの政治の内情もよく分かるようになった。そして、同
時に、日本の政治家は、なんと単純な頭の持ち主ばかりなのだろうと思う。あ
きれるほどである。

 話題を変える。最近、田中克彦氏の「漢字が日本語をほろぼす」という本を読
んだ。角川新書の一冊で、あの大震災直後に出版された本だ。もちろん準備さ
れたのは、その前。寄贈されたので手に取ったが、最初の一ページから引き込
まれ、「チャーチル」を中断して、そのまま読み切ってしまった。寄贈された本の
ほとんどは、最初の数ページを読むというより見て、後で、読むかどうかを決め
るのだが、この本は、手に取ったら、そのまま、のめり込んでしまった。題はか
なりショッキングだが、内容は本当に面白い。かれは遺書のつもりだというが、
こんな威勢のいい遺書を書いたら、死ねなくなってしまうだろう。言語学にこれ
まで興味がなかった人にも、とりあえず勧めたい。死ぬ前に、この本に巡り合っ
たことを、後悔する人はいないとおもう。逆に、もう少し早く知って、自分もちょっ
ぴり言語学をやってみたかった、と思う人がいるのではないかと思う。内容につ
いては、別の場所で触れることもあると思うが、とりあえず大推薦しておこうと
思う。


5月28日 感想 バカと鋏は使いようによる。

 前立腺がんを告知されてから、そろそろ三週間になる。断っておくが、痛み、
出血、尿閉など、症状は全くなく、食欲も普通にあり、一日一万歩近く、毎日歩
く体力も変わりはない。しかし、マーカーの値が異常に高い。ま、時限爆弾を抱
えているということだろう。そろそろ82歳になる人間では、がんの進行ものろ
く、治療を急ぐ必要はないから、予定していたならフランスに住んでいる家族と
面会してきてから治療をスタートさせようという主治医の意見に従って、現在パ
リに滞在中だ。おりしも、G8がノルマンディーのドービルで開催されている。い
や、もう終わったか。ちょうどそのとき、パリにいたということ。
 日本の政治状況はインターネットのおかげで、フランスにいても、日本にいた
とき同様に把握しているつもりである。菅おろしの動きが活発になっていること
も知っている。その上での感想のタイトルである。しかし、これは日本に限った
ことではない。G8に集まった世界の政治家の顔を眺めても、その印象は深ま
るばかりだ。
 だが、とりあえず日本の話とする。「菅はバカの付くほどの正直者だ」という人
に、ぼくが、「いや、菅は正直者の付かない、単なるバカだ」と返した話はどこか
に書いた。だから、菅首相を擁護するつもりはない。だが、日本の外に出てみ
ると(遠くから見ると)、菅おろしに夢中になる人間の愚かさがよくわかる。「今
の日本は、そんなことで時間を無駄にしていていいのか。危機は進行中だし、
最悪のシナリオだって考えておかねばいけない。そのことが分からないで菅お
ろしにうつつを抜かす政治家、その危機を肌で感じ取れない政治家は、危機音
痴だよ」といいたくなる。菅のバカはよく知っている。だが、「バカと鋏は使いよう
による」ということわざが日本にあるではないか。
 そもそも現在の福島第一原発の危機に一番の責任を感じなければならない
のは、だれか。自民党だ。中曽根政権が一番の責任者だ。安全性を学校教育
の中にまで持ち込んで、日本国民を洗脳し、原発を受け入れさせたのは誰だっ
たか。今、政府に入っている与謝野馨など、東大から中曽根のコネで原発に勤
めていて、原発関係のフランス語文献の翻訳を手がけ、役に立ちそうだと中曽
根に認められ、引き抜かれての政界入りだった。今の政治家たちで、反原発
の立場を明確にしていたものはごくわずかしかいない。

 ぼくの考えでは、どうすべきかをいおう。菅おろしの前に、これまで責任政党
を自称していたのだから、自民党、公明党は、責任をとって全員議員辞職した
らどうか。不信任案を出すよりは、ずっとすっきりしている。そうすれば自然と総
選挙になる。解散総選挙という目的も達せられる。菅おろしなどして、日本を世
界の笑いものにしないでもすむ。そして、選挙の結果、新しい政権は生まれる。
 小沢も、菅に任せて東電救済のための増税などをさせたら、選挙に負ける、
民主党は壊滅するという政党人としての危機感だけで、菅おろしにくみしている
のだろう。しかし、次の選挙は増税だけが争点にならない。原発、エネルギー
政策が争点になる。その点、浜岡原発の運転停止要請は、明らかに、バカの
菅の放ったヒットだった。振ったらたまたまバットに当たった、というヒットだが、
ヒットはヒットだ。打点の付くヒットだ。それが分からないのなら、小沢も意外と
先の見えない男だ。ぼくは、かれは、もう少し先が見える男だと思っていた。
 政治は、先を見通すだけではだめだ。想定外のことが起こる。アメリカはチュ
ニジア、エジプトの民主革命を支持したが、そしてこれからも支持せざるを得な
いが、エジプトは対イスラエルの政策を大きく変えようとしている。ガザ国境の
封鎖を解いて、イスラエルに和平圧力をかけている。オバマのイスラエルに対
する態度の明確化も、それを踏まえてのことかもしれない。
 ともかく、日本の政治家たちも、これまでアメリカ一辺倒でマヒさせてきた国際
感覚を研ぎ澄ませたらどうだ。そうすれば、国内政治に対する感覚も自然と鋭
くなるだろう。他の先進国にもバカな政治家が多いが、世界は動いている。想
定外のことが起こる。ドイツのメルケル首相は、ヨーロッパでの現職の首相とし
ては、一番賢いという印象を与えていたが、日本の東北大震災の影響をもろに
受け、緑の党に躍進され、つい最近の地方選挙で、緑の党に抜かれ、第三党
に後退した。津波はドイツにまで及んだのだ。


3月12日 感想

ツナミ被害のすさまじさに驚愕しています。
ぼくは税務署に申告書を提出しに行き、そこで地震に遭いました。まず、停電
が起り、それから数秒か10数秒して揺れが始まりました。すぐ、原発が緊急停
止する地震だ、と直感しました。
幸い車を使わず、電車も使わず、スクーターで来ていたので、大渋滞に巻き込
まれず、すぐに家に戻りました。そのあと停電が続き、電話もかからず、情報
が一切入らない状態が午後八時、電気が回復するまで続きました。

さて、今回の事態を前に、菅総理に提案です。
挙国一致内閣を野党に提案したらどうでしょう。野党の人材も、党内反対派の
人の人材も活用し、復興を図るべきです。小沢一郎には、岩手を担当させれば
いい。きっといい仕事をする。
自民党にも公明党にも、東北出身の代議士たちに、復興のための活動を共同
で担わせること。
これは、戦争に匹敵するような事態です。国難と呼んでもいい。
競争原理よりも、助け合いの原理こそが、重視されねばならない。
そうした、ことを織り込んで、テレビ放送で国民に直接話しかけなさい。ぐずぐ
ずしていてはいけない。緊急の対応を必要としています。まず国民に呼びかけ
ることを忘れなさんな。

それにしても日本の官僚主義には腹を立ててもしかたがないが、悲しくはなり
ました。鎌倉にはいくつかの踏切があります。地震と停電が起り、数時間がた
っあとも、電車は止まっているのに、遮断機は自動的に閉まったまま。踏み切
りの遮断機を開けようとしないのです。これが大渋滞の原因。駅員に、運転再
開の目途が立たないなら、踏み切りの遮断機を手動であげなさい、と詰め寄る
と、上のほうから、開けるなという命令です。開けられないという返事。現場を
見ないものの命令など聞かないで、現場の判断で開けなさい。市民からそうい
う要請があったといえばいい。クビを恐れるな。と説教しましたが、顔色を少し
変えたくらいでした。その直後、ドライバーたちは自分で遮断機を上げ、踏切を
通り始めました。信号は全部消えましたが、複雑な交差点にはボランティアの
整理係が出て整理していました。しかし、警察官の姿はなかった。鎌倉市の職
員も踏み切りを開けるよう交渉した様子はなかった。
市民の力を頼るしかないことを痛感しました。
競争は中止。助けあいましょう。